その後、シロの担当医さんを呼んで私たちは病室を出た。
時間はもう五時を過ぎている。出来ることならシロが起きてから帰りたかったけれど、それは無理そうだ。

病院を出て鳥居に向かう道中。私たちの影を伸ばす太陽はまるで血のように真っ赤だった。
誰も口を開かない。薬研も大和守も聞きたいことはあるだろうに、私に気を遣ってか沈黙を貫いている。或いは他に何かを考えているのか。

やがて鳥居が見えてくると、真黒さんは一人その場に立ち止まった。



真「…クロ」


『はい?』


真「帰ったら、刀剣たちに君の全てを話すんだ」


『!』



私の…全て?
全てということは、私の生い立ちから政府との関係から何もかもを打ち明けろと?

真黒さんにそんなことを促されるとは思わず、次の言葉が出てこない。私は今動揺しているらしい。なんて客観的なことを思う冷静な自分もいて、混乱していると彼に答えたのは薬研だった。



薬「あんた、何言ってんだ?」


真「言った通りだよ。君たちだって気になったでしょ?私の母が言ったクロとシロに対する暴言」


薬「…っ」


真「シロの私たちへの露骨な態度だって疑問だった筈だ。何より、このままクロについて何も知らない状態で良いのかって自問自答してたのは…薬研くん、君だろう?」


薬「…………」


大和「でもだからって、主たちのことを知っても何かが変わることは無いんでしょ?」


真「それは君たち次第。確かに過去を知ったからと言って過去は変えられない。それこそ歴史改変は御法度だからね。でも、未来はどうとでも出来る」


大和「!」



真黒さんはいつものおちゃらけてる表情ではなく、力強い真っ直ぐな目で訴えてくる。極稀に見る真剣そのものの瞳。冗談抜きで…本気で言っているのは明らかだ。



真「君が言わないなら、私が言いに行く」


『…何故、そうまでして?』


真「君を守りたいからだよ。クロ。このまま全部一人で抱え込んでたら君が壊れてしまう。私が直接助けてあげられないのは悔しいけど、だからって黙ってるつもりは無いよ。誰かに助力を請うことくらいは出来るからね」


『それは"政府の人間"としてですか?』


真「君の"あに"として」


『…………』



似ている。まだ受け入れてもらえていなかった時、弟たちを必死に守ろうと立ちはだかった一期の姿と真黒さんが被って見えた。
今の真黒さんは、あの時の一期の瞳と同じ瞳をしている。義理の兄妹という関係だというのに、真剣に考えてくれているのが伝わってきた。

…辛い過去ほど話すのは勇気がいる。薬研の言った通りだ。いざ話さなければいけないとなると躊躇ってしまう。

吐き出せば楽になるだろうけど、そうしたら私はどうなってしまうのか。"私"を知った皆さんがどんな反応を示すのか。全てを曝け出しても尚、私は彼らの主として胸を張れるのか。わからない。

でも…



『…、わかりました』


薬「!大将…」


大和「主…」


『話します、全てを』



どのみち両親については話そうと思っていたのだから、もう少し長話になるだけ。たった十八年、されど十八年。彼らにとっては瞬きのような時の中の、"私"の記録。



『帰りましょう。薬研、大和守』



他の誰かに語られるくらいなら、私が自分で全てを語りましょう。










大丈夫だよ、クロ

そんなに肩肘張らなくて良いんだよ

痛みも悲しみも、全部

彼らなら受け入れてくれるから










真「…頼んだよ…刀剣男士たち……」


泥だらけの黒猫に、どうか救いを…


 

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