私の過去を話した夜、私は久しぶりに泣いた。最後に泣いたのは…ああ、父さんが狂った時だ。
薬研がびっくりした顔をして私の目元を拭ってくれて、その手が濡れているのを見て私も驚いた。涙なんてもう渇れ果ててると思ってたから。
初めて打ち明けた胸の内。全てを聞いた薬研は、もっと早くに聞いてやれなくて後悔したと言っていた。聞いて…苦しみを理解してやりたかったと。そう言う彼は苦しそうに眉を寄せて私を見つめていた。
そんな顔させたかったわけじゃないのに…。
私が言葉を返す前に、薬研は私を守ると力強い声で言った。刃生を掛けて守り抜くと。
″守る″だなんて、面と向かって言われたのは初めてだった。″守りたい″は真黒さんにも言われたけれど、それとは違う、強い決意がそこにあった。
頭でそれを理解する前に、その言葉は私の胸につかえていた鉛を一瞬にして溶かし、消し去ってしまった。本音を聞くのがあんなにも怖くて仕方なかったのに、強張っていた身体から力が抜けて肩が軽くなり、目の前が滲んでいった。
まさか涙が出るなんて。泣き顔を見られる恥ずかしさよりも驚きと戸惑いの方が勝って、どうしたら良いのかわからなかった。
涙の止め方なんて覚えていない。
シロはどうやって泣き止んでいたっけ?なんて、目を擦っていたら、暖かい手に優しく引かれ、気づいた時には薬研の腕の中に収まっていた。
薬研に抱き締められるのは初めてだ。そう冷静に考える頭とは裏腹に、耳の奥から聞こえてくるトクントクンと速くなっていく鼓動。耳元で紡がれる、彼の優しい声と温もり。止まらない涙。
泣きたくてしょうがない。今までどんなにそう思っても泣けなかったのに…。塞き止めていたそれを、いとも簡単に取り除いてしまった薬研は本当に凄い。
誰にも頼れなかった。頼り方なんてわからなかった。甘え方も知らない。だって私はシロを″守る立場″にあって、″守られる″という概念なんて持ってなかったから。
だから薬研に″守る″って言われた時、本当に嬉しかった。私の汚れた過去を知っても私を守ると言ってくれて…。どうしようもなく、すがりつきたくなって…。
でも、やっぱりそれは恥ずかしいから、ほんの少しだけ服を握らせてもらった。これが今の私の精一杯。
『…ありがとう。薬研』
薬「俺っちの方こそ、ありがとな。
これからもよろしく頼むぜ、大将」
それは私の台詞。
貴方は私より″私″のことをわかってくれた。
本当にありがとう。
私の……大事な…………?
『…、?』
薬「どうした?」
『…ううん。なんでもない』
薬「そうか?…さ、そろそろ一休みしろよ。あと少ししか寝れねぇけど」
『うん…』