大和「……あ。ねぇ、主」


『?なんですか、大和守』


大和「あそこ」



…お?何やら遠くで見守っているらしいふさふさの尻尾が見える。一応空気読んでくれたんだね、こんのすけ。頭隠して尻隠さず状態ですが。



薬「ありゃ出てこようか迷ってる感じだな」


『ですね』



時々そばだてているらしい耳まで見えている。このまま待たせるのも悪いですし、行くとしましょうか。



『準備が整ったようです。皆さん行きましょう』


燭「わかったよ。一期くんたちも行くよ」


一「はい」


小狐「承知致しました」


『演練中の指揮は実戦と同様に全て貴方に任せます』


薬「おう。血がたぎるなぁ」


「!?ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!」


『はい?』



サクサクと歩いていた私たちを彼女たちはまたもや引き止める。
まだ何かあるのですか?時間が勿体無いです。



「指揮を任せるって薬研に言った?」


『そうですけど』


「近侍は?部隊長は!?」


『薬研です』


「はあ!?あんた馬鹿!!?」


『超失礼ですね』



馬鹿っぽい格好の貴女たちに馬鹿呼ばわりされたくありません。絶対に私の方が頭良いです。



「なんで薬研なわけ?いち兄も小狐丸もいるのに何よそれ?」


『は?』



何故ここでまた一期と小狐丸が出てくるんです?

言っている意味がわからずに一期や小狐丸を見上げてみれば、二人だけでなく光忠や大和守たちも眉間に皺を寄せていた。薬研は…



薬「…………」



無表情で彼女たちを見詰めています。睨んでいるわけではありませんが、ちょっと出てくるオーラからは寒気がするような…。



「レアを近侍にしたがる子がたっくさんいるのにさぁ、それって無いでしょ?あ、レアの意味わかってる?」


「レア持ってんのにレアを近侍にしないで持ってくるし、しかも薬研とかさ。本丸でならすっごく頼り甲斐あるけど演練で近侍?何なの?レア持ってないあたしらへの当て付け?レア自慢?あんたホントウザイ」


「あ、もしかして侍らせてるだけでホントは弱っちぃんじゃない?育ててないとか!」


「う〜わぁ〜、マジでカワイソーなんですけどー」



またその話…。既視感が半端無いです。

本当にレアレア煩いですね。そんなにレアが欲しいのならそこら辺のレストランでレアのステーキでも食べててください。レアチーズケーキでも良いですけど。


溜め息が出そうになるのを呑んで今度こそ黙らせようと思ったのだけど、次は薬研によって手首を掴まれて制された。



薬「まぁ、あんたらの言う通り俺っちは大して珍しくもねぇ短刀だ。いち兄たちに比べりゃあ身体も小せぇし頼りなくも思うだろう。だがな…」



言葉を区切った彼は女審神者たちの真正面で立ち止まると、いつもより一層低い声を発した。それはそれは恐ろしい…煮えたぎった腹の底から出したような声を。



薬「俺も戦場育ちな刀剣男士の一人、己の大将を守るのが俺の役目だ。俺の大将傷つけてただで済むと思うなよ」


「「「っっ!!?」」」





燭「格好良いね、薬研くん」


一「自慢の弟です」



一期がとても誇らしげです。確かに良い弟さんです。私なんかの近侍にしておくのが勿体無いくらいに。

…でも、今ではもう薬研以外に近侍なんて…



薬「行こうぜ、大将」


『はい』



戻ってきた薬研は物凄くスッキリした顔で微笑んだ。普通の声ですね。さっきの暗黒の声は一体…。



「っ!な、なによ…!皆してコイツに騙されてるだけなんだから!!」


「あんたの首元にキスマークたっくさんついてんのみーんな知ってんだからね!」


『…………』



まさかの発言に足が止まった。

…ここでそれを言いますか。"キスマーク"なんて言われても彼らには通じないかと思ったけれど、ニュアンスでわかってしまったらしいですね、その表情は。怒りや悲しみが皆さんの眼差しから伝わってくる。

どこからそんな情報が漏れたのやら。まぁ大方お喋りな役人か養成所で私を気味悪がっていた先生にでも聞いたのだろう。夏もスカーフ巻いていましたし、当てずっぽうでそう捉えられた可能性もある。


彼女たちは気付いていないようだが、他の審神者や刀剣男士たちまでもが私たちに注目し始めている。これだけ騒げばそうなるでしょう。

別にその話を知られても言いふらされても何とも思いませんけど、こう見られ続けるのは嫌ですね。

…仕方ない。あまり目立ったことはしたくないのですが…、やむを得ません。



「どーせ刀剣男士にチヤホヤされるために審神者になったんでしょ?この性悪女!!」


『で?』


「は、?」


『聞こえませんでした?
それで?言いたいことは言い終わりましたか?』


「!!?あんたホンット意味わかんない!!なんなわけっ!!?」



挑発すれば出るわ出るわ不満の数々。

そんなに言葉が出てくるなんて、貴女たちの口ってどうなってるんです?呆れを通り越して少々羨まし…、いえ語彙力無いようなのでそんなの要りませんが。

おっと、小狐丸がそろそろキレそうですね。



小狐「っ、ぬしさま…」


『大丈夫です。もう少しご辛抱ください』



依代に手を掛けようとした手を握って止めると皆さんもそれぞれ口を噤んだり目を瞑ったり…。五虎も今にも泣きそうな…、付き合わせてしまって申し訳ないです。



『(でも、これで良い)』



こうして全てを吐き出させるんです。彼女たちが抱く私への不満の全てを。言いたいことがあるなら言えば良い。本人が目の前にいるのだから。

十分くらい経っただろうか?やっと言い終えたらしく肩で息をする彼女たちは結構お疲れのようだ。



『終わりですか?』


「…っ!」



再び挑発的に聞いてみるけれど、もう出なかった。よくもまぁ十分間も続け様に言葉のマシンガンを打てたものだ。ちょっぴり尊敬します。こうなりたくはないですけど。

まぁとにかく、これでやることはあと一つとなったわけだ。黙って見守ってくれている刀剣たちの間を通り、私は最初に話しかけてきた桃色髪の子の前まで進んでいく。彼女たちの中でも一番乱暴な言葉を投げつけてきた子だ。

真っ直ぐに瞳を見詰めれば若干怯んだらしく後ずさった。酷いですね、私まだ何もしていませんよ?



『では、私からは一言だけ』



あれだけ沢山の言葉を吐き出したのですから、ちゃんと貴女たちの中に入りますよね。たった一言、簡単なことですから。



『後で正々堂々と演練のお相手、お願いしますね』


「え…」


『以上です。それでは、"また後で"』


燭「えっ、ちょぉ、待ってよ主!」



そう言い残して背を向け、戸惑う皆さんを連れてこんのすけも回収しながら演練場へと向かった。

暫くして後ろから聞こえてきたのはキーキー言う甲高い声だった。猿になってしまいますよ?構わないので言ってあげませんけど。

そんな声を聞いてか、私の数歩後ろを歩いていた薬研は面白そうに笑っていた。


 

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