キンキンと刃のぶつかり合う音がそこら中から聞こえてくる。完全に戦場と化した本丸で私はただ一人を見据えていた。

蘇芳。

もう敬称は良いでしょう。真黒さんのご親友だった彼が、時間遡行軍を率いている一人。

今思うと"親友"というのももしかしたら真黒さんたち政府側の罠だったのかもしれない。政府を出るとき真黒さんは「あいつが逃げ出した」と言っていた。

政府に一度は捕らえられているのだから、真黒さんの罠も私の過去を使ったのも一応効果はあったということだろう。私からすればとんだ迷惑ですけど。



蘇「何故です…?何故そんなにも前だけを見ていられるのです?」



蘇芳の笑顔はもうどこにも無い。寧ろ怒っているような顔で心底わからないといったように問いかけてくる。



『私は"今"を生きたい。彼らと共に生きたい』


蘇「過去を変えれば貴女を産んだ母親も帰ってきます。優しい父親も」


『だから何ですか?二人はもう死にました。いつまでも悲しんでいては"生きろ"と願ってくれた二人に申し訳ないでしょう?』



"私の分まで生きて"と言ってくれた母さん。"最後に守れた"と、"ごめん"と一言謝ってくれた父さん。二人がいないのは寂しいけれど、これが現実。受け入れないでどうする?

人を失って寂しい思いをしているのは世界中にたくさんいる。そんな中でも強く前を向く人間は何も私一人ではないのだから。



『私だけじゃない。シロも同じことを言いますよ』


蘇「!…ふふ、忘れたのですか?貴女の妹さんもまだ私の術中にいることを」


『…………』



シロのことを出したからだろう。今度はシロで揺さぶりをかけるつもりか。

大和守を始めシロに会った者たちは、敵に立ち向かいながらも意識がこちらに向いている。



大和「っ!主…」


長「どこまでも汚いマネを…!」


蘇「切り札は最後まで取っておくものですからねぇ」


『(切り札…ね)
審神者の眠りも貴方ですか。眠らせて何をしているのです?』


蘇「夢を見せています。過去の彼らの幸せをね」



過去の幸せ…



蘇「シロさんにも審神者たちと同じ過去の夢を見せています。過去の幸せを取り戻したいと願うに決まっています」



シロの過去の幸せ?

取り戻したいと願う?

あの子が?



『………は…』



思わず口許が上がったのがわかった。こんな風に笑うのは久しぶりだ。

薬研にさえ見せたことが無い笑いだから驚いていることだろう。私だって今こうして笑えていることにビックリしているのだから。



『はは…、ふ…あはは…っ』


薬「た、たいしょ…?」


鶴「主が声出して笑ってる…」


燭「「こりゃ驚いた」って言わないの鶴さん!?」


鶴「い、言えないくらい驚いてるんだ!!」


小夜「…宗三兄様みたい」


宗「何か言いましたか、お小夜?」


小夜「別に…」


江「楽しそうですね…」



鶴丸たちのやりとりを聞いても止められない。

あまりこういった表情を見せて良いものなのかはわからないけれど、私の機嫌は最高潮だ。許してほしい。



蘇「……何がおかしいのです」


『ははっ、いえ、ただ…』



ただただ可笑しくて堪らない。この人はずっと私を見ていたんじゃないのか?



『あまりにも、愚かな発想だと思いまして』


蘇「…………」


『シロが貴方の術中にいるのは認めましょう。でも…、あの子がそう簡単に貴方の手に堕ちるとお思いですか?』



誰の妹だと思っている?
あの子は私の片割れだ。それに…



『シロは病弱ですけど私と同じく負けず嫌いで挑発にも自分から乗ります。でも、決定的に私と違うのは、私が止めるまで仕返しを止めないところですね』


加「え゛?」


大和「し、仕返し?」


『ふふ…』



夢はあの子の庭だ。
さてさて、一体今頃何をやっているのやら?



『今日の第三部隊。加州清光、大和守安定、和泉守兼定、堀川国広、鳴狐、五虎退』


加「!な、なに?」


『現世にも時間遡行軍が現れています』


大和「えっ!?」


『瑪瑙さんと翡翠さんも戦っている筈です。シロの病室はわかりますね?瑠璃様と石切丸さんがシロを守っていると思うので合流してきてください。万が一屋内戦になっていた時、石切丸さんでは厳しいでしょうから』


加「わかった!行くよ安定!」


大和「うん!」


『シロを頼みます』


堀「任せて、主さん!」


和泉「そっちもしっかりやれよ!」


狐「いざ、出陣でございます!」


鳴「…行ってきます」


五「守りますっ、シロさんのこと…!」



鳥居に駆けていく六人を皆さんが援護し、無事に通過したのを見届けて一先ず安堵。向こうは彼らに任せて大丈夫だろう。

それじゃ、私も始めようか。



『おいで、刻燿』


刻「は〜い!」



腕を横に伸ばせば本体となって私の手中に収まる私の刀。この子があの小さなナイフだったとは…。



『あの頃から視えていれば良かったんですけどね…』


刻《ん〜?ああ、ナイフだった時?
良いんだよ!ボクも今が楽しいから!過去は過去ってね!》


『…ありがとう。さ、戦いますよ』


刻《おー!》










シロ、そっちも頑張ってね


 

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