『あ…』
シ『あぁあああーーーッ!!!』
「え?あっ!」
「あらあら、足跡ついちゃったじゃないの。クロちゃんとシロちゃんのお気に入りの本よ、それ」
「ごっごめんな!クロ、シロ!足元にあるとは…」
『うん、だいじょうぶ…』
シ『ぜったいゆるさないもん!!べんしょーしなさいよ!べんしょーッ!!』
「!?シロ!どこでそんな言葉を…!」
シ『もんどーむよーだコラァ!!!』
「ぐはっ!?」
シ『あっはは!懐かし〜い』
あれは過去の私たちだ。二歳くらいだったかな?母さんも父さんも生きてて、幸せの絶頂期だった。
これは私がまだ通院で済んでいた頃。父さんが受付けしてる間、先にクロと一緒に母さんの病室に行って。『ネコのえほんよんで〜』ってせがんだ時にクロが転んで絵本落としちゃって。その直後に開いた扉から父さんが入ってきて絵本を踏んだ。
わざとじゃなかったのは今ならわかるけど、あの頃の私は大事な絵本を踏まれたことにご立腹。父さんのお腹にパンチして、屈んだ時に頬をパーで平手打ち。良い音が響いたなぁ、パァァァンッ!て。
クロはあまり怒りを露にする子じゃないから、私がその分も怒ってたんだよね。『もういいよ』ってクロに止められる頃には父さんの顔に引っ掻き傷が…。早めに止めなかった辺りクロもちょっとは怒ってたんだろう。
シ『さて、と…』
いつまでも懐かしんでる場合じゃないよね。これは敵の術か何かだろうし。
クロに会った灰色の空間から出されたと思ったらこんな懐かしいの見せて…。どうせ私が『過去に戻りたい』とか言い出すのを狙っているのだろう。クロに揺さぶりをかける為に。
シ『馬ッ鹿馬鹿しっ』
こんなので揺らぐほど私もクロも弱くないっての。
懐かしいしあの頃みたいに家族四人で笑い合いたいって思うよ。クロだって今よりたくさん笑う子だったんだから。
……でもさ、
シ『これからだって笑うことはできるんだよ』
母さんも父さんも死んじゃって悲しいよ。寂しいよ。
だけどいつまでも泣いてばかりはいられない。二人がいた時のことは思い出としてちゃんと私たちの中にある。だから前を向くんだよ。二人の分まで生きるんだ。
シ『"夢"で見せたのが運の尽きってやつだね!』
敵も馬鹿だねぇ。
夢の中ではさ、何だってできるんだよ?
スッと腕を前に出せば現れた刀。
打刀ってやつだね。たぶん大和くん。私の中で気の合いそうな人としてすごく印象に残ってたからかな?想像したらすぐに出てきてくれた。
本物じゃないただの想像の産物なんだけどね。夢だし。
斬り方なんてわかんないから、大河ドラマで見たお侍さんのように構えて大きく振りかぶる。
シ『…、バイバイ。懐かしい夢』
ちょっとだけ楽しかったよ。
振り下ろせば真っ二つに裂けて消えていく過去の映像。しゅわっと霧になって私の髪をふわりと靡かせていく。
そうして私の過去が消えた先、他にもたくさんの映像が浮かんでいた。
シ『……はぁ、まったく』
これは私のものじゃない。知らない人たちがたくさん映ってて、皆笑っている。
恐らく眠らされているらしい審神者たちだ。皆過去の幸せに魅せられ、囚われて起きないということか。
シ『どいつもこいつも…』
刀を握る手に力が入る。
過去ばっかり見ててどうすんのよ?
笑顔の映像たちをギッと睨み付け大きく息を吸った。
シ『しっかりしやがれ審神者ども!!テメェらが過去に囚われてどうすんだ!?誰が歴史を守るんだ!?何のために審神者になったのか思い出せ!!』
グニャリと歪み始める映像から黒い靄が立ち昇る。あと少し…、起こすにはまだ足りないらしい。
シ『テメェらが今を生きないでどうすんだ!?大事な奴はいねぇのか!?家族は!?刀剣男士は!?いつまでも過去に縋って甘ったれてんじゃねぇよ!!!』
ピシピシと亀裂が入ってきた。
よし!あと一息!!
シ『この…』
胸一杯に息を吸い込む。現実じゃあこんなこと出来ないけどね。夢だから良いんだ。クロが頑張ってるんだから私だって!!
シ『大馬鹿野郎どもがぁああああああ!!!』
バキィィィン!!
大きな音を立てて割れた画面。吹き出た突風が破片をキラキラと舞い散らしていく。黒い靄もすっかり浄化され、四方八方に飛んでいった。あれは審神者たちの意識だったのだろう。
シ『ふぅ…っ』
なんか疲れたなぁ。でも今ならスッキリ起きられそうだ。って、普通逆だよね。でもしょうがない、今寝てるんだもん。
シ『こっちは終わったよ、クロ』
ここを乗り越えたら、きっとまた一緒に笑えるよね?
あと少しだよ
頑張ってね、クロ