もう一度彼女の方を見れば、役人たちは思わぬ人物の登場に冷や汗を掻いていた。
「私よりも彼女のことです。チョーカーとはどういうことです?随分と理不尽な契約があったようですが?」
「そ、それは…!」
「言い訳は必要ありませんよ。全て翡翠さんの鏡を通して聴かせて頂きましたから」
「!!」
驚いた役人が翡翠さんを見れば片手には鏡。それだけではなく、彼の周りにふよふよと水滴が浮いていて、その一つ一つが光り別々の色を帯びている。
『翡翠さん、それって…』
翡「…今回の問題はクロネコや俺たちだけで抱えるには荷が重いからな。悪いが勝手に水鏡で傍聴させた」
傍聴?
そう聞くが早いか、また鳥居から様々な声が聞こえてくる。男性のもの、女性のもの…。そのどれもが元気な声。
現れた彼らはやはり刀剣男士を連れていて全員が審神者なのだとわかるけれど、でもこんなにも多くの審神者が何故翡翠さんの声掛けだけで集まったのだろう?単純に翡翠さんの知り合いだけというわけではないと思うのですが…。
翡「全員眠ってた審神者だ」
『えっ?』
「私が頼んだんです。私の知り合いにも眠っていた方がいたんですけど、さっき目を覚ましてね。「女の子の真っ直ぐな声のお陰で色んな意味で目を覚ました」って言っていたの。その特徴は貴女とは真逆なのだけど、"真っ直ぐな声"って聞いて関係がないとは思えなくてね」
彼女のお知り合いが…。
ん?真逆ということは……まさか…
『シロ…、夢で何かしたの?』
シ『大馬鹿野郎どもがーって叫んできた!ダメだった?』
『良い子』
シ『誉められた!わーい!』
成る程、シロが夢に打ち勝った時に他の審神者にも声を掛けたと。
お知り合いの方が目を覚ました後翡翠さんから連絡が来て、恐らくそこでその女の子の声がシロのものだとわかったのだろう。私たちが戦っていることともしもの時に備えて来てほしいと頼まれ、今彼女はここにいる。皆の行動一つ一つが全て繋がった。
「ぜーんぶ聞いてたぜ。チョーカーとか聞いたことねぇんだけど?」
「契約とかもどういうこと?」
「あの子の過去もずっと改変されたまま放置してたんでしょ?何それ最悪、最低!」
「ってことはさ、他の審神者も例外なく改変されてるかもしれないってことだよね?」
「ええ!?こっわー!!」
口々に出てくる政府への不満。私たちのことから発展して今までに抱いてきたものまでここぞとばかりに発散させる審神者たちに、役人たちはグッと口を噤んだ。
形勢逆転とはこのことか。
まぁ、本当なら蘇芳の件で戦いは終わっていたのだ。役人という思わぬ来訪者さえなければ口喧嘩のような戦いまですることは無かった。形勢もなにも無いか。
「…っ、鎮まれ審神者ども。そこの審神者、クロは危険だからチョーカーを着けさせていたんです。この馬鹿でかい霊力を野放しにはできません。これは私たちだけでなくお前たち審神者の身を守る為でもあるんですよ」
「これまでに彼女が審神者や政府に対してそんな危険ある行動をとったことがあると?」
「危険は未然に防ぐものでしょう?」
「成る程、確かに」
そこで彼女はチラッと私を見やった。目が合った瞬間に漏らされた笑みはどこか私を安心させ、同時に"やれ"と告げていた。
「貴方の仰る通り、危険だというのなら未然に防がなければ後が大変ですね」
「そうでしょう?そうですとも!ですから…」
「だったらもっと効率の良いやり方がありますよね?」
『!…そういうことですか』
頭の良い方だ。そして味方になってくれて良かったと心の底から思う。
胸ポケットから取り出した審神者証から、大事に挟んであった写真を取り出す。ずっとお守り代わりに持っていたシロとの写真だ。これはまた別の物に挟んで仕舞っておこう。
というわけで…
『瑠璃』
瑠「なぁに?」
『燃やせ』
「なっ!?」
瑠「おっけー!」
ぷらぷらと見せていたそれから手を放す。落下していく小さな審神者証。私が政府所属である証。それは地面に着く前にボッと発火して跡形もなく灰となった。
「なんてことを!?」
『なんてこと?だってこうすれば私が政府に行く必要が無くなる。政府の審神者じゃなくなれば貴殿方に危害が及ぶことはなく、私を気に掛ける必要も無い。一石二鳥どころか五鳥くらいいくのでは?』
「そういう問題では無い!」
『そういう問題ですよ』
瑪「あはははは!!さすが俺のパートナー!審神者証燃やすなんてね!最高だよクロちゃん!」
加「も、燃やしちゃって大丈夫なものなの?」
翡「ん?まぁ政府に所属してる証ってだけだからなぁ」
『はい。別に審神者を辞めるわけではありません。これからは無所属個人の審神者として活動するだけですよ。なので政府の役人様方には早急にお立ち去り願います』
「くっ、逃がしはせんぞ!!貴様の力は我々の物なのだからな!!」
顔を真っ赤にして怒り狂うその人に、着いてきた役人たちからも動揺が見え始めた。この中のリーダーはこの人で、彼らはただ言われるがままに着いてきただけなのだろう。
重「地位が上がり、力を欲する愚民へと成り果てたか」