さて、早く調査を済ませてしまおう。



「…………」



そっと桜の木の幹に手と額を添えて目を瞑る。意識を集中させている間、薬研たちは私を見つつ周囲も警戒してくれていた。





頭に映像として流れ込んでくる、嘗ての本丸の記憶。
暖かい笑顔で刀剣たちと接する男性が、ここの審神者なのだろう。鍛刀した刀剣にも内番を頑張る刀剣にも、優しく接する光景が視える。

でも、それは一瞬にして暗闇に飲み込まれた。
手傷を負った刀剣たち。絶望する審神者。短刀たちを何度も出陣させ、折り、また鍛刀して…。血走った目の下に隈を作り、眺めた戦績を投げ捨てる。周りの物に八つ当たりする彼を刀剣たちが止めに入るけれど、結果、彼らも折られて終わった。

最後まで説得しようと粘っている刀剣が視える。



(…あれは……)



でも、とうとう彼の本体まで取り上げられ…

そこへ騒ぎを聞いて駆けつけてきたのだろう、別の刀剣が聞いたのはバキリという音。折られた彼は駆けつけた刀剣に微笑みを残して消えた。

茫然と立ち尽くす刀剣。自我を無くした審神者はその手を彼にも伸ばそうとする。

しかし、次の瞬間には……





「っ、!」


「大将!」



バッと桜の木から離れた。緩い地面に足を取られそうになり、転びかけた私の背を薬研が支え、今剣が腕を掴む。



「こほ、けほっ、ありがと…ございます……」


「かおいろわるいですよ、あるじさま」


「大丈夫か?」


「…、はい…」



頭が痛い。バクバクしている心臓を落ち着かせようと胸に手を置いて深呼吸すると、乱たちにも心配させてしまったらしい。向こう側に置いてきてしまったから尚更だ。

ここでの調査はこれくらいしか出来ないため、私はまた薬研と今剣を持って乱たちの元に戻った。



「主さん、大丈夫?」


「大丈夫です。そろそろ戻りましょう」



これ以上ここにいたくない。それが正直な本音だった。





初めに降りてきた場所まで戻って薬研たちに先程視た光景を話していると、瑪瑙さんたちも調査を終えたらしく戻ってきた。顔色は言わずもがな悪い。

裏も表と同様にボロボロで、大木も死んでいるかのように色が変色していたそうだ。中には腐って倒れている木もあったらしい。



「外だけでもこれじゃあ、中は相当凄いことになっていそうだねぇ」


「だな…。現段階じゃ特に生き物の気配は感じられなかった。クロちゃんとこはどうだった?」



私に視線が集まる中、私も庭の状態や薬研たちにも伝えた本丸の記憶を詳しく語る。

読み取れた内容は政府の資料とほぼ同じ。でも、政府さえも知らなかった情報が最後の最後で視えた。



「……殺されています。ここの審神者」


「!それ、本当?」


「視たものが実際に起こっていたのであれば」


「でも、僕たち刀剣は簡単に主人を殺すことなんて…」



堀川さんの言うように、契約がある以上通常の刀剣たちは主人たる審神者に逆らうことは出来ない。
しかし、それは″通常″であればの話だ。



「…クロちゃん。まさかその刀剣は…」


「…はい…」



この任務、本当に怪我で済めばまだマシなレベルだ。

最後に視えた刀剣の変貌する形相、容姿。怒りや憎悪を瞳に宿し、真っ白な骨で覆われたその姿は…、もはや神として崇められるものではない。
異常へと変わった刀剣であれば、契約なんて関係なく主人に手を下すことが出来る。

全てがそうでないと信じたい。けれど、一人は確実に…










「堕ちています」










夜空を覆い尽くす暗雲。ギシギシと鳴り止まない黒本丸は、その場でぽっかりと口を開けたまま次の来訪者を待ち構えていた。


 

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