「……そう、殺されてたんだ…」



情報交換を終えた私と瑪瑙さんは、審神者が亡くなっている上に刀剣が堕ちているという予想外の事実を真黒さんに報告した。

刀剣の更正はあくまで″通常の刀剣男士″の更正を指している。堕ちたということはつまり、負の感情が高まって歴史改変を望んだ…歴史修正主義者と同じになったことを意味し、″異常″へと変貌してしまったことを言う。

そうなった場合、その刀剣男士は…



「破壊ッスか?」


「…………」



刀剣の破壊…。黒本丸での刀剣破壊は私たちの任務外だ。今行っているのは通常の出陣での任務とは違う″特別任務″。勝手な行動は出来ないため、政府に判断してもらうしかない。

この任務はまだ始動したばかり。真黒さんも任務で堕ちた刀剣男士に当たったのは初めてのことなのだろう。瑠璃様たちの所で出ていなければの話だけれど。



「…少し、聞きたいことがあるんだけど」


「何ッスか?」


「その本丸、結界はそのまま残ってるんだよね?なのにクロの視た記憶で審神者は殺されていた…と」


「はい」


「…おかしいよね?それ」


「そうですね…」



私もそれは疑問だった。

審神者が亡くなれば必然的に審神者の霊力も消えるため、結界も壊れるし刀剣男士もただの刀へと戻る。
職権剥奪の場合は審神者だった人間は生きているため、刀剣男士は宿っている霊力が無くなるまではそのまま顕現出来るし、結界は次の審神者が決まるまで政府が一時的に繋ぎ止められる。

なのにこの本丸は審神者は亡くなっているにも関わらず結界が通常機能している。先程桜の木から感じられた霊力は政府が張ったものではなかった。

矛盾したこの本丸は凄く不気味だ。



「何かありそうッスね、ここ」


「うん…」


「このまま進めますか?任務」


「…そうだね。とりあえず任務は続行。建物内の状態を見て修復出来そうになければ後でまた報告。堕ちていない刀剣男士がいるようなら更正と手入れ」


「堕ちた刀剣男士は?」


「……出来ることなら更正させてあげたいけど…」


「…………」


「″堕ちた″刀剣は剥き出しの本能で動いている。話して通じる相手でもない。彼らと遭遇して危険だと感じたらすぐに退避。更正不可能と判断した場合のみ破壊を許可する」


「…了解」


「…わかりました」



可哀想だけれど、通じ合えなければ仕方ない。やがて歴史に仇なす存在を、そのまま放置することは出来ないのだから。



「悪いね、いきなりこんな任務当たらせて」


「ほんとッスよ。なんでこんな命の危険感じながら任務しなきゃならないんッスか。この御礼は弾んでくださいよ?」


「わかってるよ。それじゃ、引き続き頼んだからね」


「はい」



苦笑いを溢す真黒さんとの通信を終えると、私たちは揃って自然と溜め息を吐いた。考えていることは同じらしい。



「あーもー、聞いてた任務と全然違うじゃん」


「まぁまぁ。とにかく調査を進めないと帰るに帰れないんだし、行くしかないよ」



そう言う青江さんも黒本丸を眺める表情は笑っていても暗かった。薬研たちも真黒さんが下した命令に思うところがあるのだろう、瞳を曇らせている。

違う本丸でも同じ刀剣男士だった者。そんな彼らを破壊しなければいけないと思うと躊躇いも生まれてしまう。


 

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