で。函館に降り立ったわけなのだけど…
「なんでついてきたんです?」
飛び込んだ瞬間に一つだけ私の後ろにくっついてくる気配がして、降りた時に振り返ったら真っ白さん…ではなく、昨日背中を擦ってくれた黒い子(真っ黒くんと呼ぼう)がいた。
腰に挿してある刀から、彼が薬研藤四郎様だというのがわかった。
短刀だからか背丈は低い。と言っても、私もそこまで身長があるわけでも無いため、目線は彼の方がちょっと高い。
それに、幼げに見えるけれど表情は大人びている。まぁ人間と比べたらかなり歳上なのだから当たり前だろうけれど。
藤色の綺麗な瞳が私を真っ直ぐに捉え、真剣な眼差しを寄越してくる。
「さっき鳥居の前で鶴丸の旦那と話してた内容は聞かせてもらったぜ。女が単騎出陣するなんて…無謀だとは思わなかったのか?」
「?思いませんでした」
何故そんなことを聞いてくるのだろう?鶴丸国永様もそうだったけど、わざわざ私を気にする理由なんて何処にも無いと思うのだけど。
「ここは戦場なんだぞ…命を落とす危険だってある…っ、なのにあんたは…!」
「??もしかして、心配してくれてるのですか?」
「っ!」
え?まさか図星ですか?
視線を逸らして黙ってしまった彼の真意はわからないけれど、もしそうなら、わざわざ危険を犯してまでついてきてくれたということだ。
昨日も思ったけれど、彼らは人間を嫌っていてもやっぱり優しいんだ。
「ありがとうございます。でも、私は大丈夫です」
「大丈夫って…」
「これでも審神者養成所で訓練は受けてきましたし、刀剣男士ほどではなくともそれなりには戦えるつもりです。それに…」
「!」
大太刀を抜き、彼の後ろに迫ってきた短刀をくわえた骨のような敵に斬りかかった。
一撃で、呆気なく崩れ去っていくそれの更に先から、まだ多くの敵が現れてくる。
これが、時間遡行軍か。
大太刀は大きく振らなければいけない分、間合いを取るのも難しいけれど、これくらいの敵ならなんとかなりそうだ。
そう思って、大太刀を担いで振り向くと、彼は呆気にとられたような驚いた表情をしていた。構うこと無く、私は続きの言葉を紡ぐ。
「戦うことは生きることだと思うのです」
「!!」
「私は生きる。どんなに危険でも…傷ついても…負けるのだけは嫌だから。自分の身は自分で守るって決めてるんです。勿論、守りたいと思うものも自分で守らないと気が済まないのですけど」
「あんたは…」
「″重度の負けず嫌いだ″って周囲から言われてきました。本当に、自分でも呆れるくらい生きることに欲深い人間です。でも、だから私はこうして生きてこられたんだと思います」
「…………」
「私は守るべきものの為に命を燃やします」
それは他ならぬ母と妹の為であり、これから共に手を取り合えるかもしれない刀剣男士の為でもある。
その為にはまず、私が戦って強くならなければいけない。彼らに相応しい審神者になる為に。
近づいてきた短刀を横に避け、上から叩きつけるように大太刀を振り下ろす。骨だから返り血は浴びないけれど、壊れる振動が腕に伝わってくるのがなんとも生々しい。
それに顔を歪めた直後、背後に迫ってきた短刀を一閃すると、別の方向からバキリと硬いものが壊れる音がした。
見れば、彼が自身の本体を抜いて敵に斬りかかっていた。そうしてその敵が砂になって消えていくと同時に、彼が私を見て微笑んだ。
………微笑んだ…?
「俺にもやらせてくれや、大将」
「え…?」
たい…しょ…?……たいしょう?て…?
言葉の意味を理解出来ずにいると、彼が私より前に出て次の敵に斬りかかる。そうだ、今は敵を倒すことを考えなきゃ命取りになる。
一先ずは彼の言葉を頭の隅にやり、敵の残滅をすべく刀を振った。
彼の言葉がじんわりと胸に侵食していく感覚に気づかないふりをしながら。