見事に敵の隊長を討ち取り、そこそこ資源を集めた私と真っ黒くんはゲートを潜って本丸へと帰ってきた。

そこで待っていたのは真っ白さんという名の鶴丸国永様。…え?逆?
それはさておき、彼は私たちを見ると直ぐ様駆け寄ってきて…



「怪我は!!?」



そう聞いてきた。怒鳴ってきたとも言う。
そうか、そんなに真っ黒くんを心配していたのか。



「真っ黒くんならご無事ですよ」


「真っ黒くんって何だ、真っ黒くんて…」


「貴方のことです。頭から爪先まで真っ黒だから」


「あのなぁ…。はぁ、まぁいいや。それより、鶴丸の旦那が心配してたのは俺っちじゃなくて大将のことだぜ?」


「大将…て?」


「あんたのことだよ、大将」


「おい薬研…っ」



私?
どういうことかわからずに真っ白さんを見上げると、朱に染まっていく顔を逸らした。何故?
というか私の心配?この二人は何を言っているのだろう?



「人間、嫌いじゃないんですか?」



酷い仕打ちを受けてきた筈だ。だから昨日から見張ってきたんだろうに。なのに真っ白さんは私を心配し、真っ黒くんに至っては″大将″と呼んできた。

私にはわからない。何故敵とみなされるべき私にこうして声を掛けてくるのかが。



「確かにここの刀剣は前任の審神者に酷い目に合わされた。何度折られたかなんて思い出したくも無いくらいにな。だが、人間が全員、前任と同じ性格してるかと言えば答えは否だ。俺っちは昨日と今日、あんたを見ていてそれを実感した」


「…………」


「今さっきのあんたの戦う姿を見て思ったんだ。俺っちはあんたのその真っ直ぐな瞳に惚れた。あんたみたいな人に扱ってもらいてぇってな」


「!薬研お前…っ」


「旦那だってそうだろう?だからずっとここでこの人の帰りを待っていた。違うか?」


「っ!」



え…と……?つまりはどういうことでしょう?私のことをずっと見ていたのは気配でわかってはいたけれど…、結局のところ彼らは私に何をしてほしいのでしょうか?



「わかってないって顔だな?」


「すみません」


「潔いのは良いんだか悪いんだか…。要するに、だ。俺っちをあんたの傍に置いてはくれないか?」


「え?」



傍に?それは…



「私と主従の契約を結ぶ…と?」



聞くと、真っ黒くんは藤色の強い眼差しでこくりと頷いた。彼の瞳は綺麗だ。

でも、本当に…



「良いのですか?私で」


「ああ。俺っちはあんたを″大将″と呼びたい。呼ばせてはくれねぇか?」



見た目よりずっと男らしい真っ直ぐな言葉がじんわりと私の胸を暖める。こんなこと言われるのは当然初めてで、私は今確かに喜びを感じているらしい。

そうか、誰かに認めてもらうというのはこんなにも嬉しいことなのか。



「ありがとう…ございます…」


「ああ。俺っち、薬研藤四郎だ。よろしく頼むぜ、大将」



ふわり、そよいだ風が桜の花びらを運んできた。甘い香りが鼻を擽り、清らかな風と共に本丸を包み込んでいく。



「あーあ、俺が二番手じゃあ主の驚きも半減しちまうじゃねぇか」


「?」



驚き?何を言っているのだろうかこの真っ白さんは。ガリガリと頭を掻いていた真っ白さんは、私の前に跪き、頭を垂れた。ちょっと待て、何故?



「あの…」


「…昨日今日と疑うような目を向けて悪かった。俺を含む太刀の多くは前任の女審神者によく夜伽を命じられていてな、そう簡単に人間の女を信じられなかったんだ」


「それは…」



そんなことさせられてたんじゃ人間不信になるのは当たり前だ。私もそうだもの。だから彼らは暫く私を認めないと思っていたのに…



「でも、あの女と君は違った。名を知っているのに縛ることもせず、凛とした姿勢で俺たちの様子を見てそっとしておいてくれたこと。この本丸の空気を浄化してくれたこと。疑いながらも嬉しく思ってしまったのが事実だ。昨日見た君の瞳があまりにも綺麗で、俺も君に扱ってほしいと思ったんだ」


「…………」


「だから俺…、鶴丸国永も使ってはくれないか?」



なんということだろう。いきなり二人の刀剣男士に主として認められてしまうとは。

…正直言うと、私は主としての器では無いと思う。命令するのは苦手だし(寧ろ自分でやる)、周りを見ているかと言えばそうでもなかったり(よくぼーっとしてる)。

なのに彼らは私で良いと言う。
私はここの審神者になるべくやって来た。だから、彼らの願いを叶えるのも私の仕事だ。



「…私は…主って何なのか、いまいちよくわかっていません。前任がしてきたことは粗方聞いていますし、勿論そんなことするつもりは毛頭ありませんが…。主として貴方たちに何をすべきなのかが、わからないんです。でも…」


「…………」


「…………」


「貴方たちが私を主として認めてくれることは…嬉しいって、思います。至らないことが多いかと思いますが…よろしく、お願いします。薬研藤四郎様、鶴丸国永様」



深く深く、頭を下げた。
すると、焦った気配が目の前と横から感じられる。何故?



「なっ、あ、頭を上げてくれ主!」


「そうだぜ大将!大将なんだから俺たちに頭を下げんのは…」


「??何故ですか?」


「何故ですかって…。主従関係ってのはそういうモンだろう?それに敬語、もう使わなくて良いんだぜ」


「″様″付けもだ」


「…主従といえど付喪神様なのですから″様″を付けないと無礼だと思ったのですけど…」


「いい!呼び捨てで良いから!
(前任と違うのはよくわかったがここまで良い子だとは…。ちくしょう、なんかむず痒いぜ)」


「?…わかりました」


「敬語もだって大将」


「…すみません。癖みたいなものなので、敬語は時々砕ける程度で勘弁してください」


「はぁ…。まぁそういうことなら…」



なんか凄く顔が赤いけれど大丈夫だろうか?刀剣男士も風邪ってひくの?

まぁそれはともかく、″様″付け禁止されてしまうとなると呼び方に困る。呼び捨てでって言ってたし、慣れていくしかないか。



「薬研、鶴丸。改めて、よろしくお願いします」



呼び捨ては苦手なんだけどなぁと思いながら空を仰ぐ。雲一つ無い空に薄紅の花弁が三枚、宙を泳ぐように舞い上がっていった。


 

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