「!…な…ん………」


「っ、主!」


「大将ッ!!」


「主っ…!」



突き立てられそうな刃の軌道に沿うように避け、左手で今剣様が刀を握る拳を上から包む。

今剣様も、傍観していた刀剣男士たちも、まさか私にそんな避け方が出来るとは思っていなかったらしい。
今剣様は短刀を握る手はそのままに、だんだんと頭が冷えてきたのか震えだす。



「申し訳ありません、今剣様」


「なん…で……あやまるのです…か…?」


「岩融様が危うい状態だと気づけなかった、無力な私にお怒りでしょう?」


「っ!?」



これ以上ないくらいに目を見開く今剣様の背中に右腕を回し、そっと抱き締める。ビクリと震えるその背中を優しく撫でると、徐々に気を取り戻してきたようでゆっくりと呼吸する。



「前任がどんな人間だったかは聞き及んでおります。人間に対する憎しみが大きいことも理解しているつもりです。だから私は無理な手入れをせず、貴方たちが私という人間を受け入れてくれるまで待とうと思いました」



今となっては言い訳にしか聞こえないでしょうけれど。



「申し訳ありません。貴方たちへの配慮が至らなかった私の責任です。だからというわけではありませんが、岩融様をお救いする機会を、私にくださいませんか?」


「……、」


「今こうしている間にも、岩融様はどんどん弱っていっておられます。どうか、私に手入れをさせてください。もし私に不穏な動きがあり、岩融様をお救い出来なかった時は、私の腕を切り落としてください」


「!?」


「主!?」


「大将っ何言って…!」


「主よ、そこまでお主が責任を感じる必要は…」


「大いにあります」



力があるばかりで苦しむものの声も聞けずに何が主だ。何が審神者だ。



「認めてもらえずとも、私は貴方たちの主となるためにこの地に立ちました。どんなに憎まれようと、恨まれようと、私は貴方たちから逃げません。貴方たちの主は私です」


「大将…」


「生憎と、私はまだまだ生きると決めているので命を差し上げることはできませんが、たった一人の刀剣男士を救う力も無い腕などあっても無駄というもの。貴方たちの怒りの矛先は私の腕で受け止めましょう」


「主…っ」


「…………」



私の腕でその恨みや憎しみが少しでも晴れるのなら安いものだ。不自由になる分、生き辛くはなるだろうけれど、腕が無くたって死にはしないんだから。
そんな痛みより、彼らの受けた心の傷の方が余程痛くて苦しいのだと知っているから。



「……………さ……ぃ」


「…………」


「ごめ…なさぃ……いわ…とぉし……を………」


「…はい」



私の言葉の意味を理解したらしい今剣様は張り詰めていた気が緩んだようで、私に凭れ掛かるようにして気を失ってしまった。

見れば、彼の傷も結構酷い。岩融様の次は彼の手入れもしなければ。

今剣様をそっと横たわらせると三日月が私の隣に膝をつく。



「すまぬ、主。近くにいたというのに…」


「いいえ。説得してくださってありがとうございました。このまま今剣様をみていてくださいますか?おじいちゃん」


「ここで″おじいちゃん″と呼ぶか…。あい、わかった」


「よろしくお願いします」


「大丈夫だったかっ?主?」


「はい。ご心配をおかけしました。お二人は引き続き資源を持ってきてください」


「ああ。だが、大将?無理はすんなよ」


「はい」



さて、手入れを始めましょうか。



 

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