こんのすけを抱っこしたまま、三人に見送られて手入れ部屋を出た。
ああ、離れまでの道程が長い。家が大きすぎるのも大変だなぁ。こじんまりしたお家でひっそり過ごすのが私には合ってると思う。
「クロ様、本当に大丈夫ですか?」
手入れ部屋からだいぶ離れた時、さっきまでの荒っぽい声音から一転、案じているらしい気遣うような言葉がこんのすけから発せられた。
私を見上げる濡れたような黒い瞳は少し揺らいでいる。
「大丈夫。まだ警戒してくる刀剣もいるけど全員手入れは出来たから、ただの刀に戻ることは無いだろうし」
「そうではありません。貴女様についてです」
私…?案じているのは私のこと?
……つまりこんのすけは、このチョーカー諸々私について事細かに知っているということか。
「…こんのすけは審神者様のサポートをする式神故、貴女様については真黒様より全て聞き及んでおります。幼少期のことから現在置かれている立場まで…全てです」
「…そう…」
「手入れ部屋に向かう前に休んでおられました刀剣の数を確認しました。薬研藤四郎様、鶴丸国永様、三日月宗近様を除いて二十二振り。しかもその殆どが中傷から重傷でした。本来その数を一度に手入れすることは審神者様のお命に関わることなのです」
だろうな。それだけの数に霊力を費やすなんて、ごく普通の審神者なら重傷四・五人でバテてることだろう。
″普通″なら。
「普通じゃないってことだね、私は」
「っ、クロ様…」
「大丈夫だよ」
こんのすけが案じているのは私の身体ではなく内側…心についてらしい。政府に降ろされた式神のくせに随分とお優しい狐だ。
首元をくりくりと撫でてやれば気持ちいいのか目を細める。その様子はまるで猫みたいで見てるだけで癒された。
「今となっては霊力が大きいのも自覚してるし、チョーカーつけてても手入れとか結界とかに支障が出ない程度には使えるから問題無い」
「そうですが…」
「これが私だからしょうがない」
「…っ」
「どうしようもないんだよ」
本当に、どうすることも出来ないんだ。
霊力が大きくて危険視されて。逃がさないように首輪で繋ぎ止められて。毎日獣を見るような視線を浴びてきた。
どうしようもない。でもそれは諦めているわけじゃない。そんな中でも、私を見てくれる人はちゃんといる。だから私は頑張れる。
「負けないよ、私は」
絶対に。負けない。
朝日に照らされる本丸の庭を眺めながら、そう胸に誓った。
「…クロ様…。私めもお側におりますことを、どうかお忘れなく…」
「…じゃあ早速。こんのすけは抱き枕ね」
「はっ!?そっ、そうではなくてですね!!」
「わかってるよ。…ありがとう」
「!はいっ!」