手入れ部屋には既に遠征から戻ってきていた鶴丸と三日月も揃っていた。資源も十分、なんとかなりそうだ。

ということで、早速手入れを開始する。
三日月の時も思ったけれど、みんな傷も汚れも酷すぎる。よくこんな状態で今まで生きてこれたものだとある意味感心してしまった。

一人目、二人目…。短刀から順に刀が大きくなるにつれて軽傷にはなっていくけれど、大きくなる分時間もそれなりにかかる。
私が手入れをしてる最中、薬研たちに他の部屋の掃除と布団を敷いてもらい、終わった刀剣たちにはそっちで休んでもらうことにした。










それぞれに霊力も流すことも忘れずに、全ての刀剣男士の手入れが終わったのは翌日の朝方だった。
襖の隙間から差し込む光が少し眩しい。



「お疲れさん、大将。ほい、お茶」


「あ…、ありがとうございます」



気を効かせてくれたんだろう、薬研は最後に手入れした太郎太刀様が出ていってから湯呑みを差し出してくれた。濃い緑茶から温かい湯気が上がっている。

一口含み、ゆっくりと嚥下すれば身体全体にその温かさが染み渡っていく。



「…美味しいです」


「そりゃ良かった」


「しっかし驚いたぜ。まさかあの多人数、一気に手入れしちまうなんてな」


「主よ、身体に支障は無いのか?」


「大丈夫です。問題ありません」



そうか、と呟いて三日月たちもお茶を啜る。″平和″。その二文字が頭に浮かんだところで、とたとたどたどたと廊下を走るやけに軽い足音が此方に向かってきた。
皆一様に何事かと思っているけれど、この気配は…



「…こんのすけ?」


「クロ様ぁぁぁぁあああ!!!!」



名を紡いだ直後、スパアァァァンッと勢い良く襖が開き、現れたのは式神管狐のこんのすけ。

なんか久々な感じがするのは何故だろう?昨日会ってないからだろうか?

呑気にそんなことを考えているとこんのすけは勢いのままに私の胸に飛び込んできた。



「クロ様!ずっとお部屋に戻ってこないから心配しましたよ!手入れに行くなら行くと何故こんのすけに言ってくださらなかったのですか!!」


「え?いや、なんか急だったし」


「急でも一言お呼びつけください!!ただでさえ貴女様のことは真黒様と瑠璃様より配慮するようにと言われて…!」


「ふーん、二人に?」


「はっ!!」



しまったぁああ!と腕の中で頭を抱えるこんのすけをモフモフしてあげた。

そうかそうか、あの二人に何か言われてたのか。だったら少し悪いことしたかもしれない。
まぁ真黒さんも瑠璃様も過保護過ぎるところがあるから気にすることも無いのだけど。



「あのー、主?何話してんだかさっぱりなんだが?」


「ああ、すみません」



すっかり忘れていた。見れば鶴丸はこんのすけの形相に呆け、三日月はほけほけと微笑み、薬研はとりあえず耳だけ傾けているようだ。
三人とも話の流れからしても全くわかっていないだろう。



「″クロ″というのは私の審神者登録名です。″真黒″さんは私の義兄で、時の政府では私の上司にあたります。″瑠璃″様は私の義姉の審神者登録名です」


「(……義兄と…義姉…?)
へぇ。んで、″配慮するように″って?」


「二人が過保護なだけ…」


「なわけないでしょう!?クロ様!昨日お食事というものを摂られましたか!!?」


「え…?………………………………あ」


「あぁああああやっぱりぃいい!!!!!この分だと一昨日の朝食以降何も食べていませんね!!?」


「あー……」


「こらあぁぁぁぁああああ!!!!」



ああ…、こんのすけがなんだか瑠璃様に似てきている。最初の頃の健気さは何処へ?可哀想に、あの子に似ちゃダメだよ。残念になっちゃうよ?



「…事情はわかった。大将は自分のことに無頓着なわけだな」


「主。俺たちが気づけなかったのも悪いが、いくらなんでもその驚きは無いぜ?」


「こんのすけ。今日の朝食は用意してあるのだろう?」


「はっ、はい!クロ様のお部屋に。その他クロ様より頼まれておりました食材はボックスに送ってあります」


「では、主は部屋にて休むと良い。流石に手入れに丸一日費やしたのだ、疲労はあるだろう」


「いえ、そこまで疲れてるわけでは…」



実際、審神者になる前だって夜更かしは当たり前だったし二日三日寝ないのも普通だった。そんなに気にしなくても…。



「いいや!君が気づいていないだけで絶対に疲れている!!今日はゆっくり休むのが君の仕事だ!」


「はあ…。でも、皆さんのお加減とか…」


「大将、それは俺たちにだって出来るから昨日みたいに命じてくれ」


「…………」



命じる…。そうだ、昨日は初めて三人に命令したんだった。
命令は嫌いだ。言うことをきくのもきかせるのも。相手の意思に関係無く縛ることが。

昨日は時間も資源も足りなかったから、やむを得ず命令という形で頼んでしまったけれど、やっぱりジクジクと胸につかえる棘が抜けてくれない。



「大将」


「…?」


「俺たちは命令されたって苦しみやしねぇよ」


「!」


「第一、そんな命令しないだろう?大将は」



どこまで…見透かしているんだろう?私の考えを払拭するようにニカッと笑って言う薬研に、少しだけ胸が軽くなった気がした。

……そう言ってくれるなら…頼っても良いのかな…?



「…じゃあ…、お言葉に甘えて、少し休みます」


「″少し″か…。まぁ休まないよりはマシか」


「……何かあったら、すぐ呼んでください」


「ああ、わかった。こっちの面倒は任せてくれ」


「ゆるりと休むのだぞ」


「…ありがとうございます。おやすみなさい」


 

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