急いで庭に降りてきた刀剣たちは目の前の光景にただただ呆然と立ち尽くした。
「はぁッ!!」
バシィッと竹刀の交わる音がしたかと思えば、それを受けた主はその力をいなすようにするりと身を捩らせて距離をとる。
長谷部が横に薙げば身体を反らしたり屈んだり…。長谷部の機動に合わせて悉く攻撃を避ける彼女の様は、まさに柳に風…、暖簾に腕押しといった表現がよく似合う。
しかも彼女、汗一つ垂らさないどころか呼吸すら乱れていない。対する長谷部はというと、圧している筈なのにどこか必死に食らいつこうとしていて、まるで踊らされているようだ。
「………すごい…」
普段無口で滅多に表情に出ない小夜左文字でさえも目を丸くして呟いた。
「やってるな」
「薬研!」
手合せをハラハラと見守る粟田口兄弟の元に漸く薬研が現れた。
二人の様子を観る彼は至って普通で、止めに入るでもなく傍観を決め込むらしい。
「薬研兄さんは…わかっていたんですか?」
「主君がこんなに強いことを…」
「いいや。流石にあの出陣一回きりじゃ、大将の本当の強さはわからねぇよ」
「でも…、じゃあなんでそんなに落ち着いてるの?」
主さん怪我しちゃうかもよ?と心配そうに言う乱に対し、薬研はまた長谷部の竹刀を躱した主を見て「すぐにわかる」と言ってふっと微笑んだ。
「はぁっ、はっ、なぜ…っ」
「はい?」
「何故ッ攻撃して来ないのですかッ!!」
再び長谷部が竹刀を振り上げ彼女に向かうもふらりと躱され、目標を見失った竹刀は地を抉る。
その間に背中に回った彼女が竹刀で叩けば一本。しかし、彼女はそれをせずに絶妙な距離を空けて竹刀を構えることなく佇む。
長谷部の言う通り、彼女は攻撃しないらしい。
「!?また…ッ」
「だって」
「っ?」
「貴方の敵は、私ではありませんから」
「は…っ?」
「…成る程」
「え?どういうこと?」
「僕にもさっぱり…」
「?」
言葉の意味がわかったらしい一期一振。
他にも燭台切や大倶利伽羅など。へし切長谷部を内面的にもよく知っている者たちは、先程の焦りから一転して呆れた溜め息を吐いたり困ったように苦笑した。
「やれやれ…。長谷部くんにも困ったものだね、伽羅ちゃん」
「…さぁな」
「彼女の戦い方は…参考になりますね……」
「ええ。若干挑発的でもありますが」
「…舞ってるみたいに見える……」
「がはは!あれが新しい主か、気に入ったぞ!」
「岩融!あるじさまのいっていたこと、わかったのですか?」
「なに、長谷部の性格を考えればすぐにわかる」
「せいかく?」