彼らが語ってくれた悲惨で残酷な過去は、当事者でなくとも目を逸らしたくなるものばかりだった。同じ人間としてやるせない気持ちを抱き、謝りたくもなってしまう。
これでよく私を主として受け入れてくれたものだ。
人間を見るだけでも嫌だろうに…、殺したくて堪らなかっただろうに…。
でも、同情しても過去は変わらない。前任によって悲惨な過去を歩まされてきたのなら、これから歩む彼らの未来を明るく照らすのが後任の私の務めなのだから。
「出陣は誰と何処行ったの?」
「今日のメンバーは薬研、前田、今剣、大和守、宗三で函館に」
「短刀と打刀の編成か。まぁ悪くないと思うよ。″簡単なところだけ″って約束も守ってくれてるね。でもよくクロが出陣すること反対されなかったね?」
「反対どころか…、猛反対されましたよ」
「へ?」
「戦乱の世で活躍していた彼らが、主人を出陣させることに反対しないわけがないでしょう?」
認められていなければ別だろうけれど。
「主が先陣きって敵に突っ込んでいくなどッ前代未聞です!!」
と、長谷部の言葉が右耳から左耳にスルーっと抜けていった。お茶が美味しいです。
ああ、ちゃんと頭には残っていますし理解もしていますよ。
出陣して主が怪我をしたら…。最悪、殺されてしまったら…。彼らの表情からそんな考えが手に取るようにわかる。
出陣経験が豊富な元第一部隊のメンバーは特に私を出陣させることを快く思っていなさそうだった。他の皆さんの表情も険しい。
もしかするとこの説得が一番難関なのでは?と少々困ってしまった。
どうしようかと次の言葉を選んでいる時、彼らを説得してくれたのは私の初陣を共にしてくれた薬研だった。
「そんなに大将を出陣させたくねぇなら、俺たちが大将より強くなるしかねぇよ」
「薬研…」
「はっきり言って俺たちは大将より弱い。身も心もだ。長谷部の旦那はわかるだろう?」
「それは…っ!」
「あの手合せ。大将は長谷部の旦那を一度として叩かずに勝っちまった。旦那が冷静じゃなかったからってのもあるが、相手の動きの分析力も身体的な能力も大将の方が遥かに上回っていた。ただでさえ機動力の高い長谷部の旦那が相手にも関わらず、大将は本気も出さずに勝ったんだ」
「っ!」
薬研…、よく見てくれてたことは嬉しいですが、そんなこと言ったら長谷部がまた刀解しろって言ってくるじゃないですか。ああほら、何かどんより沈んでますよ?黒い靄が発生してますよ?
…長谷部とは約束してあるから大丈夫だと思いたい。
「それに、夜戦繰り返してた俺だって前任が解雇されて数年は戦場に立ってなかったんだ。身体も鈍っちまってて、今の俺じゃ大将の足元にも及ばねぇ。大将と一緒に出陣して俺はそれを嫌なくらい実感した」
「…………」
「刀剣の俺たちは人を斬る道具だが、大将の力で人の身を得てる今は大将を守る為の存在だ。なのに守られるべき大将の方が強くて、俺たちが逆に守られ救われちまってる。情けねぇよな」
「薬研、そんなに気にすることはないのですよ?皆さんに出陣を強制するつもりは全くありませんし、私は簡単な場所にしか出陣しませんし」
「いいや。出陣に簡単も何もねぇよ。下手すりゃ命を落とすのは何処だって同じだ。そんな場所に大将を送り込まなきゃならねぇこの環境を作ったのは、元凶は前任だが残された俺たちの責任でもある」
「…………」
「歴史を守る以前に大将を守るのが俺たちの仕事だ。その為に俺は何が何でも強くなる。どんな敵が来ようと無傷で大将を守れるくらいにな」
…不謹慎でしょうが正直な感想を申します。薬研は男前ですね。
声が低めだからだろうか?顔立ちは幼さもあるのに表情はキリッとしているし、ギャップというのはこういうことを言うのだろう。お勉強になります。
話が逸れてしまったけれど、薬研が皆さんの前で堂々とそう宣言してくれたお陰か、さっきまで反対していた彼らもやる気に満ちた表情で鍛練だ出陣だと意気込み始めた。中にはまだ私が出陣することを心配してくれている者もいたけれど、「心配してる暇があるなら鍛練して強くなろう」とどうやら納得してくれたらしい。
余談だが、張り切り過ぎて早速本体片手に出陣しようと立ち上がった和泉守は堀川に押さえ付けといてもらった。ビターンッと床に顔を打ち付けた和泉守に場は笑いで包まれた。
堀川は和泉守に対して容赦無かったです。
そんなこんなで、取り敢えず今日は私も含めた部隊が出陣し、明日以降はまたどうするか決め直すことになったのだ。