馬を宥めに慌てて駆けていく瑠璃の背に溜め息を吐く。審神者になっても彼女の為人は変わりませんね。
ドタバタと走り回る彼女からは″お嬢様″という言葉はとてもじゃないけど思い付かない。暴れ馬というか…馬を追い回すじゃじゃ馬?
「はぁ…。うちの主が申し訳無い」
「?」
知らない声がして振り向くと、冠を被った大きな男性が頭を下げていた。
″うちの主″とは瑠璃のことだろう。ということは瑠璃が連れてきた刀剣男士か。
「いえ。あの子が来たら何かしら壊されるとは思っていましたから大丈夫です」
「…それは大丈夫って言って良いものなのかい?」
「はい。壊された物は″全て自分で直させる″ので」
「…ははっ。君は主に聞いていた通りの人みたいだね。名乗り遅れてすまない。私は瑠璃の近侍を勤めている石切丸という」
「この本丸の審神者、クロと申します』
瑠璃からどう聞いていたのかは敢えて聞かないでおこう。なんとなく想像はつくし。
「よろしく。それじゃ、私も主を手伝ってくるとするよ」
「お疲れ様です」
若干げっそりしてる感じもするけれど、彼は瑠璃の近侍なのだから私がとやかく言うことでは無い。嫌々やってるようでもなかったし、ここは有り難く任せるとしよう。
さて…
「説明が遅れてすみません」
改めてこの場に集まった皆さんに謝りを入れると、彼らは呆けていた顔からハッと我に戻った。
「いやいや、それは大丈夫だが。女の子が厩破壊とは驚いたぜ」
「あの子の馬鹿力は天性のものなので。加州が破壊されなくて良かったです」
「破壊!?俺破壊されるとこだったの!?
主っ!!本っっ当にありがとう!!!」
「どういたしまして」
「それで、あの人は誰なの?」
「彼女の審神者登録名は″瑠璃″。私の義姉で、審神者養成所では私の同級生でした」
(瑠璃…。あの人が大将の義姉…)
「″ぎし″…とは?」
「義理の姉という意味です。私は彼女の家に養子入りしたので。血の繋がりの無い義理の姉妹ということになります」
「主様の、お姉様なんですね」
「はい」
…尤も、彼女を″あね″だと思ったことは無いけれど。
姉妹だとわかってやっと警戒を解いたらしい。ほっとした彼らは今度は瑠璃の観察へと移ったようだ。
「私を心配して来てくれたようです」
「さっきも言ってたな、連絡がどうのって」
「審神者になったら連絡するようにと言われていたのですが、修復前に連絡しても余計な心配を増やすだけでしょう?和解してから呼びたかったですし。だから今日連絡入れようと思っていて…」
「連絡入れる前に来ちゃったんだね」
「しかも直したばかりの厩壊すとか…」
「随分と慌ただしい女だな。義理でもあんたの姉には思えねぇ」
「兼さんってば…」
そこは私も目を逸らしたいです。
一応アレでもお嬢様としての教育は受けてきた筈なのですが…ね?
「まぁ、悪い子ではないのでほどほどに仲良くしてあげてください。ここを知った以上、時々遊びに来るでしょうし」
「″時々″で済むの?」
「私が″時々″で済ませます」
(((((…″済ませます″…)))))
ん?どうしました?
だって瑠璃も刀剣男士を統べる審神者なのですから、彼女にも仕事してもらわなくては困ります。お嬢様だろうと関係ありませんし、そもそも瑠璃はそういう扱いを嫌っていますからね。
「さ。厩のことは瑠璃と私でなんとかしますから、皆さんは広間で休憩していてください。光忠と一期は皆さんのお茶を用意して頂けますか?」
「わかった。伽羅ちゃんも手伝って」
「俺に構うな」
「良いから良いから」
「主もすぐに来られますか?」
「私はここを鎮めてから行きますので大丈夫です。ゆっくりしていてください」
「わかりました」
「いち兄、僕も手伝います」
「ぼ、僕も!」
光忠は大倶利伽羅を引っ張りながら、一期も前田と五虎を連れて厨に向かう。他の皆さんにも広間に向かうよう促すと厩を気にしつつもぞろぞろと移動していった。