加州に手を引かれて外に出ると…、あらまぁなんということでしょう。どういうわけか砂煙が立っている場所があり、無惨にも…そこには無かった筈の大きな風穴が空いた厩がありました。
周りには何事かと駆け付けたらしい畑当番や洗濯当番の面々だけでなく、刀装作りをしていた江雪や太郎も…というか他にも全員揃っている。
鍛練組と出陣部隊以外は全員内番服だ。
「あ!主来てくれた!」
「怪我人はいませんね?」
「ああ。一人も怪我しちゃいねぇよ」
「しかし何者かが厩に…」
「はい。恐らく…というか、絶対知り合いですので、警戒しなくても大丈夫です」
「知り合い?」
「クロ!!!」
本丸では聞いたことの無い高い声が響き、そちらを見ると砂煙の中から人影が現れ物凄いスピードでこちらに駆けてきた。満面の笑顔で。
…て、ちょっと待ってください。そのスピードじゃ…
「会いたかっ」
グイッ
「わっ!?」
「…………」ひょい
「たぁあああああ!!?」
ズザザザ…ッ
手を繋いだままだった加州を引き寄せながら猛突進してきた彼女を衝突寸前のところで避けた。抱き着いてこようとした彼女はそのまま地面をスライディング。
あらあら、地面が抉れてしまっています。避けて正解でした。
「…………」
「加州、大丈夫ですか?」
「へっ?あ、ああうんっ!大丈夫!主は!?」
「大丈夫です」
「良かった!!
(主は何食わぬ顔してるけどさ!!転んで地面抉れるってどんだけ!!?)」
加州に怪我が無くて良かった。掠りでもしてたら即重傷になってしまうところでした。
さて、皆さんの前で華麗なスライディングを披露した彼女はというと、ガバリと起き上がって私を睨みながら今度は歩いて近づいてきた。
そんな泥だらけの顔で来られても怖くありません。
「ちょっとクロ!!なんで避けるのよ!?」
「貴女の突進を食らったら冗談抜きで肋が粉々になるからです、瑠璃様」
「敬語!!″様″付けもダメ!!」
「………………………………………わかった…瑠璃」
「おっそーーい!!!」
元気だね、瑠璃。
毎度毎度、私は敬語と″様″付けをし、瑠璃はそれをやめろと指摘する。同じやり取りをして始まるのは変わらない。
でもこれを初めて見た皆さんは私と瑠璃を交互に見比べながら混乱している様子。そりゃそうだ。得体の知れない女の子が来た上に、普段敬語の私がタメ口になったのだから。
瑠璃についての説明もしないといけませんが、その前に彼女にはやってもらうことがあります。
「瑠璃、なんで来たのかはわかってるから聞かないけど…」
「わかってんなら話は早いわ!なんで連絡寄越さなかったのよ!!」
「黒本丸だったここを修復してたから。昨日掃除が終わったから今日連絡しようと思ってた」
「むぅ…そんなの言い訳!」
「どう捉えたって良い。で、それより瑠璃」
「何よ?」
「昨日、鯰尾と骨喰が綺麗にしてくれた厩に風穴を空けた挙げ句…」
「わあああ王庭!!落ち着いて!!
骨喰あっちに回り込んで!!」
「ああ」
「岩融!!そっちにみくにぐろが!!」
「わかった!!今剣!そのまま追い込め!!」
ガッシャァアアン!!!
「あぁああああ!!洗い立ての洗濯物がぁ!!!」
「あああっ!?
松風!ボクの下着返してぇええ!!!」
「あ…。江雪兄様の袈裟も踏まれた…」
「……地獄絵図…ですね…」
「ええ…。小夜も踏み台まで使って頑張って干してくれたというのに…」
「うちの馬たちがだいぶ興奮して暴れ回ってるんだけど?」
「あれ……?」
会いに来てくれたのは素直に嬉しいけれど、馬たちのことは話が別ですよね?馬に罪はありません。
だから私は、笑顔のまま固まる瑠璃の肩にそっと手を置き、一言紡ぐ。
「戻せ」
「はいぃいいいいい!!!」