「失礼します。お疲れ様です、クロ様」
「あ、こんのすけ」
外から吹く心地好い風を感じながら大和守とお茶を飲んでいると、傍らにこんのすけが現れた。
政府と本丸行ったり来たり…本当に忙しいね。
「こんのすけもお疲れ様。ごめん、今日の分まだ終わってない」
「大丈夫です。クロ様の書類はちゃんと期限内に提出できてますので。本日は別件で参りました」
「別件?」
なんだろう?
湯飲みを置いてこんのすけに向き合う形に座り直し、座蒲団を敷くとペコリとお辞儀してそこにお座りの形になった。躾がなってるというか、動物っぽくないよね。式神だからなんだろうけど。
「僕、出た方が良い?席外そうか?」
「私はいても構わないですが…。こんのすけ、聞かれてても良い内容?」
「はい、大丈夫です」
こんのすけの了承を得ると大和守は一緒に聞くことにしたらしく、湯飲みを置いて姿勢を正した。
「明日が審神者会議だというお話は真黒様より聞いておりますよね。当日は第一会議室に向かってください。午前十時開始です」
「わかった」
「連れていく刀剣男士はもうお決めになっておりますか?」
「まだ決めてない」
「確かお二人ですよね?妹様のお見舞いにも行かれるわけですから、大太刀と薙刀はやめておいた方が良いと真黒様が言っておりました」
大太刀と薙刀…。刻燿と太郎と次郎、あと岩融だね。確かに四人とも本体が大きいから大変か。廊下狭いし。
「それと、政府機関の外では刀剣男士の姿を一般人に視られてしまいますので」
「その呪をかけるのは審神者なんでしょ?」
「はい。真名の呪は刀剣男士が鳥居を潜る際に自動的にかかる仕組みになっています」
現世に刀剣男士を連れていくのは大変だ。特に一般人に隠し通すのは。
時の政府は世間一般には知られていない存在だし、もし一般人に真名を呼ばれ刀剣男士に聞かれてしまえばアウト。それだけで主従逆転の危機に晒される。
よって、真名についてだけは政府が呪をかけることになっている。それで寝返った刀剣男士によって審神者が減ったら堪ったもんじゃないからだ。
一般人に視られないようにする呪というのは、その刀剣の主がかけなければいけない。これは彼らに宿している霊力の持ち主でなければかけられない呪なのだ。
だから、もしも力量不足で呪をかけられない審神者は、刀剣男士を連れて政府の外には出歩けないことになっている。
「クロ様は霊力も申し分ないですし大丈夫でしょうが、くれぐれも呪をかけ忘れることの無いようにお願いします。病院は時の政府機関内ですので呪は必要ありません」
「わかった」
「お話は以上です。それでは、私はこれで」
「ありがとう。あ、厨にお昼のおいなりさん残ってるから食べてって良いよ」
「!!」
お、尻尾がピンッてした。おめめもキラキラ。おいなりさん好きなのね。
元気よく「ありがとうございます!」と言ったこんのすけは凄い勢いで厨に向かっていった。廊下、走っちゃダメだよ?
「退屈しませんでした?」
傍らで静かに聞いていた大和守に声をかけると、こんのすけの様子に唖然としていた彼はハッと我に返った。
「(こんのすけもあんな風に感情出すんだ…)
大丈夫。審神者会議って言ってたけど、主は誰を連れていくの?」
「…どうしましょうか。刻燿と太郎と次郎と岩融はダメらしいですからね」
「刻燿はまだ良いと思うけどあの三人は図体でかいからね。太刀もそれなりに大きいよ?打刀だって和泉守とか宗三さんも背が高いし」
「そうですね」
三日月おじいちゃんだって180cmくらいあるわけだし、身長で括ってしまえば結構大きい者揃いだ。とすると短刀と脇差?
戦いに行くわけではないし私は誰でも良いのだけど。
「お夕飯の時にでも皆さんに希望をとってみます」
「多かったら?」
「?そんなにいないと思いますが?皆さん政府は嫌いでしょうし」
「でも、妹さんのお見舞いも行くんでしょ?そっち目当ての刀剣は多いと思うよ」
「そうでしょうか?」
シロのことは病気だということしか言ってないし、興味はあるだろうけど会いたいと思うものなのだろうか?
「僕も会ってコレのお礼言いたいし」
「!…つけてくれてるんですね」
大和守の本体に括りつけられた白いお守り。風に揺られたそれの金の刺繍がキラキラと輝いている。
「勿論。だって沖田くんにも贈り物なんてされたことなかったし、刀に贈り物なんて誰もしないでしょ?今は顕現できたからこそ貰えるんだろうけどさ、前任は論外だったし」
嬉しそうにお守りを握る大和守。気に入ってくれてるようで良かった。
…会いたいと言っていたけど、良いのだろうか?
沖田総司の最期は、確か病で…
そんなことを考えていると、彼も同じことを思っていたらしい。
「…病気なんだよね、妹さん」
「はい。元気な子ですけどね」
「ぷっ!それどっち?」
「病気だなんて思えないくらい明るい子ってことです。病気じゃなければ今頃は短刀たちとはしゃぎ回っていたと思います」
「へぇ。主ははしゃがないよね」
「私は元気な子を見てる方が好きなので」
「ふふっ、主らしくて良いと思うよ。
…こんなこと聞いて良いのかはわからないけどさ」
「?」
「……治らないの?」
曇った瞳を逸らしながらポツリと溢した言葉。その裏には、嘗ての主、沖田総司を思い浮かべているのだろう。
刀剣で、付喪神の彼らは病がどんなものなのかを知らない。どんな気持ちで己の主の死を見届けてきたのだろう。
「治る可能性はあります。ただ…」
「ただ?」
「…私がもっと…頑張らなければいけないだけです」
「?」
どういうこと?と首を傾げる大和守に私は無言で返すことしか出来なかった。