政府の門を出る前に大和守と薬研に″隠″と唱え、隠形の呪をかけた。これで彼らは一般人には見えなくなる。



「大将、見舞いの前にどこか行くのか?」


「はい。お買い物をしてから特別な場所に」


「特別な場所?」



首を捻る二人にまだ秘密ですと言って政府の外に出た。

私の両隣より数歩後ろを歩く二人は初めて見るのだろう現世の景色を物珍しそうに眺めている。車も電柱も建物の造りも…彼らにとっては全て新鮮なものなのだろう。

周りに人がいないことを確認しながら暫くあれはこれはという問答を繰り返していたが、やがて一つ目の目的地が見えてきた。



「まずはここです」


「お花屋さん?」



色とりどりの花が並び良い香りが漂っているここは私がよく買いに来るお花屋さんだ。



「いらっしゃい。おや?夜雨ちゃんじゃないかい」



奥から出てきたおばあちゃんが私の姿を見て久しぶりだねぇと微笑む。もう九十代なのに足腰はちゃんとしてて頭もしっかりしていて、私の理想の女性だ。



「お久しぶりです、おばあちゃん。お元気そうでなによりです。いつものをお願いできますか?」


「ああ、またあの二つかい?」


「ええと…、そうですね。花束はいつもので。もう一つはちょっと見て回ってからお願いします」


「はいよ。じゃあまた声をかけておくれ」



先に花束作ってるからねぇと言って、数種類の花を選んで奥に戻っていく。いつも頼んでいるものだからすぐに出来上がってしまうだろう。



「さ、急いで決めますよ」


「え?」


「は?決めるって…まさか俺たちも花を?」


「はい。シロへのお見舞いの花。急がなければお見舞い手ぶらですよ」


「そっ、それ早く言ってよ!」


「雅なことなんか知らねぇぞ俺はっ!」



そんなアワアワしなくても…。色んな花があり過ぎて二人とも何が良いのかはわからないらしい。

昔はどうだったか知らないけれど、お見舞いに贈る花はよく考えて選ばなければいけない。
百合みたいに匂いのキツいものはダメだし、根のあるものも″根が付く(寝付く)″という発音でダメ。シクラメンも″死″と″苦″でダメ。

……あれ?そう考えると結構な難題与えてしまったでしょうか?



「うぅ〜ん…」


「………………大将…」


「そんな恨めしい顔しないでください。では、何でも良いので一輪だけ選んで頂けますか。お見舞いに不向きな花だったら言いますから」


「わかった。一輪だな」


「一輪だけ…。じゃあ…」










「ありがとねぇ。またおいでね夜雨ちゃん」


「はい。ありがとうございました」



おばあちゃんに見送られながらお花屋さんを出る。結局二人には一輪ずつ選んでもらい、私が選んだ花を含めてフラワーアレンジメントを作ってもらった。



「はぁ。花も色々あるんだな。大将、こういうのは前もって言ってくれや」


「すみません。実物を見ないことには選びようもないかと思いまして」


「はは、確かにね。でもお花選ぶのちょっと楽しかったよ。僕らが選んだやつで大丈夫だった?」


「はい。シロ好みの花でした」



薬研が選んだのはガーベラ。花言葉は″希望″や″常に前進″といった前向きなもの。色は白だから″律儀″という花言葉もある。なんとも彼らしいお花だと思った。

大和守は春定番のチューリップ。ピンクを選んだから、″思いやり″という花言葉に加えて″愛の芽生え″や″誠実な愛″という愛情を示す花だ。

花言葉は教えていないのに、こうもピッタリな花を選ぶとは…。シロの反応が楽しみです。それに対する二人の反応も。










「そうそう、さっきのお婆さんの言葉なんだけど、時々聞こえにくかったんだよね。″なんとか″ちゃんって」

「ああ、それは私の真名です。歯抜けに聞こえるものなんですね」

「大将、真名言われたんならもうちょい焦らねぇか?いくら俺たちに呪がかけられてるからって…」

「大丈夫ですよ。万が一聞かれても信じてますから」

「主…(そう言ってくれるのは嬉しいけど…)」

「大将…(もっと危機感持ってくれ…)」


 

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