大将の妹、シロの頼みで"じゅーす"とやらを買いに大将が出ていってしまった。シロの相手をしていろと言われたが具体的にどうしろと?

…畜生、なんか今日は大将に振り回されっぱなしじゃねぇか?
刀剣に花を選ばせるなんて前代未聞だし、特別な場所とやらは大将たちの両親の墓で、それについては帰ってから話すと言われたものの気になるし。

大和守も同じことを思ったのだろう揃ってムスッとしていると、それを見たシロがふふっと笑った。



「さてさて、薬研くんに大和くん。いきなりクロから離しちゃってごめんね。私が頼んだことだから、クロのことは責めないであげて?」


「!まさかあんた、わざと大将に買い物を?」


「うん。クロ抜きで話したかったからさ。聞きたいこともあるし、言っておきたいこともあるから」


「言っておきたいこと?」


「クロのことでね。話し終わるまで戻ってこないだろうから、それまでちょっと私に付き合ってくれないかな?」



話し終わるまで戻らねぇって…。おいおい双子ってのはそんな簡単に意志疎通できちまうもんなのか?
……否、この双子なら当然のようにできるな。シロとはまだ会ったばかりだがわかる。全くと言って良いほどに雰囲気が違うが、大将と相性抜群なのが犇々と感じられた。

何にしても、話さねぇことには大将も戻らねぇなら相手するか。大将からも頼まれたことだし、シロは俺たちに会えるの楽しみにしてくれてたんだもんな。

長話になるんだろうと思い、俺たちはそこにあった椅子に腰を下ろした。



「わかった。大和守も良いよな?」


「はぁ、しょうがないな。何が聞きたいの?」


「ありがとう!えっとね、クロのことどう想ってる?」


「「…………」」



…単刀直入だなおい。大将に対する"想い"か。



「…黒本丸」


「「!!」」


「ごめんね。全部とはいかないのかもしれないけど、色々聞いたんだ」



申し訳なさそうに眉を下げながら言うシロ。その前で俺たちは一度顔を見合わせた。

政府では黒本丸について話題になっているのだろうが、シロが何故知っているのか…。俺たちに思い浮かぶのはただ一人、大将だけ。



「……それは…主から?」



しかし、それは間違いらしくシロは首を横に振って否定した。



「ううん、クロは教えてくれなかったよ。私が心配するようなことは隠す子だから。…真黒っつー胸くそ悪い義兄に聞いた」


((口調と声音が変わった…!?))



い…嫌そうだな、ものすごく。女が"胸くそ悪い"とか言うもんじゃねぇぞ。
眼光が鋭くなったのも気のせいじゃねぇよな?大将は真黒の旦那とは普通に接してたが…、シロは嫌いなのか?

黒本丸…。今でこそあんなに綺麗な本丸だが、当初は酷かった。そこら中ボロボロで汚くて…。前任の部屋なんか見れたもんじゃなかった。それを大将が全部綺麗に浄化してくれたんだよな。



「…大将が来てくれなきゃ、俺たちはただの刀に戻って眠ってたんだろうな」


「そうだね…。僕も人間に絶望したまま、あの広間で転がってたんだろうなぁ」


「…クロが来て良かった?それとも…、そのまま眠りにつきたかった?妹だからって気遣わなくて良いから、本当の気持ちを教えてほしいんだ」



シロはさっきまでの明るい笑顔から真剣な表情へと変わった。その瞳には見覚えがある。大将が真っ直ぐ気持ちを伝える時の瞳と同じだ。強い光がシロの瞳にも宿っている。

……強い、この双子。



「良かったぜ、大将が来てくれて。今も十分満足してる」


「!」


「他の審神者だったらここまで思わなかったんだろうな」


「同感。主の前にも何人か審神者が来たけど、みんな殺気立ってる奴等にすぐ怯えたり、現状を見て溜め息吐いて嫌になっちゃったりしてさ。僕らを受け入れようともしなかったんだ」


「クロは…違った?」


「全然違った。初めて挨拶に来た時は深く頭を下げてくれて、ボロボロの僕らを見ても嫌な顔一つしなかった。前任の霊力が尽きかけてるって知った時も真剣に僕らを手入れしてくれたんだ」


「手入れ…。嫌じゃなかったの?人間に絶望してたのに」


「最初は嫌だったよ。人間に触られるのなんて鳥肌ものだって、意地でも審神者に心を許すものかって思ってた。…でもね、主が本丸を浄化してくれた時に伝わってきたんだ。純粋に…僕らを治したいって想いが」


「…………」


「本丸は審神者の心次第で環境が変わるんだ。結界を張ってるのは審神者だからね。桜が咲いて、蝶が飛び交って…。今度の主はすごく良い審神者だって…もう一度信じてみたくなったんだ」



その時を思い返しながら話す大和守は本当に嬉しかったのだろう。頬が緩んでるぞ?すごく。

でもま、俺っちも人のことは言えねぇんだろうな。



「薬研くんは?クロからは、最初に認めてくれた自分の初期刀だって教えてもらったんだけど。クロの何を見て認めたの?」


「そんな紹介されてたのか。…大将には悪いが最初は興味本意だった。本丸に来た審神者を見張ってただけ」



その頃の俺たちにとって、審神者は危険そのものだったからな。どうやって追い出してやろうかとか初めこそ思っていたが、挨拶だけして何もしてこねぇ審神者は初めてだったから興味が湧いた。

ただの刀だった時は選べなかった主を、身体があり心を伝えられる今なら選べる。認めるに値する審神者なのかを見極めたかった。



「"負けない"って大将の口癖あるだろ?あれ言う時の大将が、男の俺でも見惚れちまうくらいに格好良くてな。"この人に使ってもらいてぇ"、"この人を守る刀になりてぇ"って思ったんだ」


「"負けない"か…。ふふっ、クロの負けず嫌いは健在なんだね」


「まぁ…売られた喧嘩をホイホイ買っちまうのはどうかと思うが、宣言通り"負けねぇ"からな。余計に憧れを抱いちまうのさ」


「あ!聞いたよー、瑠璃の厩突撃事件!クロってばその日も挑発乗ったんだって?」


「ああ。お相手さんが衝撃波放った時は流石にヒヤヒヤしたがな」


「あれから一回瑠璃がお見舞いに来たんだ。大丈夫!私がうんっっと叱っておいたから!」


「「…………」」



グッと握り拳を作って清々しいほど頼もしい笑顔を向けてくるシロに、俺たちの表情は引きつっていることだろう。

その"大丈夫"は安心して良いのか?というかシロって義兄妹に対してだいぶ態度が酷いような…?



「あ、話逸らしてごめん。
二人ともクロのことちゃんと受け入れてくれてるんだね。安心した」


「ああ。俺たちだけじゃなく、本丸に残ってる連中も皆大将のこと認めてる」



次郎太刀の旦那も言ってたな、「認めなかったらシメる」って。俺もそれには同感だった。大将の霊力に触れて気持ちも知っておきながら認めねぇ刀が居ようものなら柄まで通してやろうかと。

結果的に全員が大将を認め、長谷部の旦那だけが手合せしたわけだが…。大将に傷一つでもつけてたら、ぶっ倒れた旦那のこと助けるどころか追い討ちかけてたな。絶対。










「…ッ!!」ゾクッ

「??長谷部くん?どうかしたかい?」

「…いや(何か悪寒が…)」


 

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