「そんな…脅しではないですか…っ」


「そうですね」


「…″契約″…というのは…?」


「契約の内容は、″鈴城はシロの入院費及び検査代の援助をする。その代償として、クロは鈴城に住み込みで労働。命令は絶対。もし一度でも命令に背く、又は審神者の任務で失敗すれば、シロを医療機関外へ放り出す″というものです」


「ひ、酷い…っ」


「っ、…貴女は着けたのですね…。それを…」


「はい。でも、着けたからといって彼らの犬に成り下がったつもりはありません。鈴城の人間なんて私の眼中にありませんでしたし、住み込みで働くのも命令を聞くのも…、これまでの生活で慣れてましたから苦にも感じません。…シロはかなり怒りましたけどね」


「じゃあ、今日シロの真黒さんたちへの態度が酷かったのは…」


「そういった経緯があったからです。シロは鈴城が大嫌いなんですよ。瑠璃様とは今は和解していますけど、最初は酷いものでした。瑠璃様がお見舞いに顔を出す度に、花瓶やら本やらそこにあった物を全て投げつけては追い返していましたから」


(うわ…)


(目に浮かぶなその光景…)


「私が大事なのはシロだけでした。鈴城の彼らが私をどう思っているかは知りませんけど、シロを生かしてもらえるなら契約でも何でもします。嫌な命令だろうと受け入れて完璧にこなしてみせます。今日はさすがに忠告させてもらいましたけど」


「忠告?」


「麗華様は瑠璃様の成績を上回った私を嫌っていますから、私が命令を素直に聞き入れようと何をしようと気に食わないんです。でも、誰よりも私の力を恐れているのも彼女です。私が″首輪″を着けたことで上に立つことの優越感に浸っているようで、今日も私に色々文句を言いに来ました」


「主、あれは文句なんて生易しいものじゃなかったよ。シロも歯向かってたけど″霊力だけが取り柄″とか″飼い慣らされた″とか立派な″暴言″でしょ」


「なっ!?」


「そんなこと言われたの!?」


「いつものことです」


「″いつも″!?」


「私の存在自体を良く思っていませんからね、麗華様は。姿を見れば何か言わなきゃ気が済まないんですよ。私は別に麗華様のことなんて何とも思っていませんから、いつもは聞き流しているだけで終わらせるんですが…。流石に今日はシロの気に障って発作まで起こさせましたから…」





「黒猫は″首輪″があろうと主人に爪を突き立て、噛み付くこともあるのだということ。覚えておいてくださいね?麗華様」





「比喩表現でしたけど彼女には伝わったことでしょう」


「あの女、大将のこと完全に飼い猫扱いしてたもんな。でも大丈夫なのか、あんなこと言って。シロに何かされたら…」


「大丈夫です。確かに権力を考えれば彼女の方が上ですけど、何でもかんでも権力が上だと思ったら大間違いだと彼女自身もわかっていますし、そこまで馬鹿な人ではありません。次にシロに何かしたら私も容赦しません」



大将はチョーカーに触れながら、まるで自分の決意を固めるかのようにそう言った。

絶望なんて少しも感じさせない強い瞳。こんなにも酷く悲しい過去を背負っておきながら大将が強くいられるのは、シロを守り母親の遺言を全うさせるため。

強いが…悲しいお人だ…。



「そうして私は鈴城で働きながら審神者の勉強をし、十八歳になって漸く審神者としてこの本丸に来ました。まさか黒本丸に就くことになるなんて思いませんでした」


「主よ、正直に言ってくれんか。ここに来た時…、俺たちを初めて見た時…、どう思った?」



三日月の旦那の問いは俺たちも知りたい大将の心だった。ここにいる連中が受けてきたこととほぼ同じ…それ以上の仕打ちをその身に受けてきた彼女が、俺たちを見て何を感じ、手を差し伸べてくれたのか。

大将は視線を落とし、少し思案してから口を開いた。



「…黒本丸に行くことになると告げられた時は、私は本当に運が悪いと思いました。これまでにも色んな苦痛に堪えてきたというのに、私の歩む道はどう足掻いても痛みと悲しみを伴うものなんだと。嫌でしたよ、すごく」


「…そうか」


「でも…」


「?」


「広間で…、ここで皆さんが傷ついている姿を見た時、嫌だと思っていた私は私自身が嫌になりました。貴方たちは私と同じ、傷つけられた者。この世で不幸なのは私だけではなく、救いの手を望んでいる者は沢山いるのだと知り、私は己を恥じました」


「っ!」


「同時に、私の力で何としてでもお救いしたいと思いました。同情も無かったわけではありません。昔の私と重なって見えたのも事実です。"放っておけない"、"治してあげたい"…、ただその一心で、結界を張り直して、出陣して…、貴方たちの手入れをしました」


「…君が前任の部屋で咳き込んだのは、思い出してしまったからだったんだな」


「はい。だからこそ余計に助けなければと思ったんです。貴方たちの痛み…同じではなくとも私にはわかりますから」


「…………」


「あとは、貴方たちが知る私へと繋がります。これが私の十八年の記録…今の"私"の成り立ちです」



聞いてくださってありがとうございました。そう締めくくり、大将は頭を下げた。


 

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