「私はそこでは使用人として扱われました。と言っても、ほぼ奴隷のような形でしたが。掃除、洗濯、食事の用意。それに加えてそこでもまた女には殴られ、女の知らないところで男に抱かれました」


「っ、夫婦だったんでしょ?なのになんで主が…」


「簡単に言えば憂さ晴らしでしょうね」


「憂さ晴らしって…そんな身勝手な…っ」


「人間とはそういうものです。そこに鬱憤を晴らせる対象のものがあれば容赦ありません。彼らにとってその捌け口が私だっただけです」


「……っ」


「シロの入院費も払ってもらってましたから、私は従う他ありませんでした。味噌汁を作っては女に不味いと言われて鍋ごと投げつけられ、火傷が癒えない内に男に抱かれ…」


「主っ」


「月に一度のシロのお見舞いだけが唯一の楽しみでした。その度にシロは新しい痣を見つけては悲しみましたけど、そんな風に思ってくれる存在はシロだけでしたから。不謹慎にも嬉しさを感じました。シロがいてくれたから堪えられました」


「主…」


「そんな生活を続けて五年、十五歳のある日、ある男性が家を訪ねてきました。それが真黒さん。時の政府の役人です」


「は?何故いきなり時の政府が?」


「政府は人の個人情報なんて無差別に洗い出します。特に彼らが欲していたのは霊力の高い人間で、審神者として過去に送り出しても問題のない存在。どう調べたんだか、私に素質があると知っていた彼は大きな鞄を開けて言いました」





「これと引き換えにこの子を戴けませんか?」





「中身は大量の札束。いくらあったかなんてわかりません。お金と私を天秤にかけたその夫婦がどちらをとるかなんて、答えは簡単でした」





「じゃ、お前はもう用済みだな!あー、疲れた」


「あんたみたいなのでもお金になるのねぇ〜」





「私は売られました」


「…っ」


「そんな…ひどすぎますよ!」


「売られたことは別に悲しくはありませんでした。これまでの人生で、私が「嫌」と言っても聞いてくれる人なんていませんでしたから。また痛いことの繰り返し…。今思えば、その頃の私は人間に絶望しきっていたのでしょう」


「…、絶望の渦中にいながら…貴女は妹だけを想って…?」


「はい。シロと、母の遺言だけが頼りでした。だから私はまだ生きようと思えました。でなければ、とっくに自ら命を絶っていたことでしょう」


「…………」


「真黒さんに連れられて行ったのが審神者養成所。審神者になる者の学校…、寺子屋と言えば通じるでしょうか?」


「寺子屋…。そこで審神者の勉強を?」


「はい。その為だけに買い取られましたから。シロの入院費の援助をしてくれるのが親戚から政府になったので、私は死に物狂いで勉強しました。歴史修正主義者、貴方たち刀剣の歴史、手入れの仕方…。審神者同士で鍛練して剣術や護身術も身につけて。でも、どんどん実力を伸ばす私は周りから見れば妬みの対象。笑顔も出せない私に友人なんてものは出来ませんでした。そうして数日経ったある日、政府に呼ばれてある機械にかけられました」


「…………」


「"霊力計測器"。その人の持つ霊力の質や大きさを調べるためのものです」


「でかいよな、あんたの霊力。質も悪くねぇし」


「そうらしいですね。機械にもそれは表れました。…馬鹿正直に、数値を表さないという方法で」


「は?」


「壊れたんです、霊力計測器。私の霊力は政府が上限と定めた値を遥かに越えてしまったんです」


「なっ!?」


「で、でも!それって悪いことじゃないんでしょ?」


「はい。霊力値の高い人間は政府が喉から手が出るくらい欲していた存在。…ですが、自分たちより強い力を持った存在を前に、人は平然としてはいられないんです」



言葉を区切った大将は首の帯を解き、一番上の釦を一つ外した。



「…っ」



前に見せてもらった、黒くて硬いそれ。決して外してはならない大将の枷が、重々しく彼女の首元を陣取っている。



「それは…?(首輪…)」


「現世では"チョーカー"と呼ばれている首飾りです。でもこれはただの飾りではなく、私の霊力を抑え込むためのもの。政府でも一部の人間にしか外せない"霊力制圧装置"です」


「霊力…制圧…?しかし主は私たちの手入れを一斉に…」


「そう。これを着けていても尚、私の霊力は抑えきれていません。その気になれば自力で壊せます」


「っ、それほどまでに、ぬしさまの力は…」


「大きすぎるようです。自分では自覚なんて無いんですが…。これまでは霊力なんて考えもしない生活をしていましたから、ずっと無意識に制御出来ていたらしいです。
改めて計測してわかった事実に政府は私を恐れ、すぐにこのチョーカーを開発しました。そして私はそれを手にやってきた人物と契約を交わし、彼らの養子となりました。養成所を設立した…政府でも尤も位の高い"鈴城家"の人間が、私の監視役になったのです」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ主!霊力でかいからってそこまでするもんなのか?」


「…霊力と…、養成所での私の成績も議論に含めた結果、そう決められたそうです。一応その時の私の学力、養成所の中でも一番だったんですよ。それまで一番をとっていたのは鈴城家のご令嬢、瑠璃様でした」


「はあ!?」


「!あの子が!?」


「びっくりでしょう?瑠璃様もただの力馬鹿ではないんですよ。同い年ですが生まれが早いのは瑠璃様なので、私たちは彼女の義妹となりました。真黒さんは瑠璃様の実兄ですので、私たちの義兄ということになります。お二人の父親と母親…、重春様と麗華様は言いました」





「お前たち双子は私たちが引き取ることになった。だが、私たちはお前たちを"むすめ"として扱うつもりは無い。あくまで監視役だ」


「"義母"って肩書きはしょうがないから背負ってやるわ。でもいいこと?瑠璃の成績を上回ったからっていい気になるんじゃないわ。"鈴城"の名に泥を塗ろうものなら容赦しない。言うこと聞かなかったらあんたの大事な妹がどうなるか…頭の良いあんたならわかるでしょう?」


 

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