本丸に帰るとちょうど花の種蒔きは終わっていた。皆さん手や顔に泥をつけて…一仕事終えた農家さんみたいですね。
「おかえり主!」
「クロちゃんおかえり〜」
「お帰りなさいませ、主」
「ただいま戻りました」
「あとはクロだけだよ」
「うん」
花の種は花壇だけでなく本丸全体を囲うように蒔いてもらっている。その全てに水も撒いてくれているし、あとは私が仕上げをするだけだ。
本丸の中央に位置する桜の木。私のお気に入りの場所。思えば私が初めてこの本丸に結界を施した始まりの場所がここだった。あれからもう一年経つと思うと感慨深い。
この桜の木はあの戦いの中燃えることなく残っていた。飛んできた火花のせいで少しだけ焦げているけれど、それでもちゃんと生きていてくれたのだ。ポツリポツリとつき始めた蕾もまた草花と同じように私の霊力を欲している。
「…………」
大きなその幹に両手を添えて目を瞑る。満開の桜。鮮やかな草花。そのイメージを持ちながら水を与えるかの如く霊力を行き渡らせる。
サァッとそよいだ風に目を開ければひらひらと舞い散る薄紅の花弁。咲き誇るその姿は一年前よりも美しい。
「また共に頑張りましょうね」
そう言葉にすれば応えてくれているのか一房落ちてきた桜の花。一年前と同じだ。懐かしい。
「大将」
「はい」
控えてくれていた薬研に呼ばれ、振り向けばズラッと並んでいる私の刀剣たち。その誰もが瞳に宿す力強い光は一年前と違って頼もしい。
準備は整った。
新しい本丸での新たな生活が始まる。良いことも嫌なことも沢山あったけれど、それはもう過去のことだ。これから先も同じように戦うことになるだろう。嫌な思いも沢山するだろう。でも大丈夫。彼らと一緒なら何でもできると信じている。
ここに咲き誇る花のように、私の心にも彩りを取り戻してくれた。そんな彼らと一緒なら、いつまでも、どんなことでも乗り越えられる。
「クロの本丸、始動です」
心に花を咲かせましょ
─完─