「ところで、君さっきから一言も喋ってないけど大丈夫?」



瑪瑙さんの言葉の先、それは私の腕にしがみついて離れない刻燿だ。道中彼らに紹介した時にはいつも通り普通に話していたのだけど…。



「大丈夫ですよね?嫌悪感が凄いだけで」


「うん」


「え。それ大丈夫なの?」



心配して覗き込むようにする瑪瑙さんにゆるゆると笑う刻燿。怪我をしているわけでもないし元気いっぱいなのは確かだ。ただ、やはり姿が見えなくても嫌なものは嫌なのだろう。

…瑪瑙さんなら話しておいても問題はないでしょう。このまま心配させている方が心苦しいですし。

店内から聞こえてくる浴衣選びの声に放っておいても大丈夫だと判断し、そこにあった長椅子に三人で腰掛けた。



「刻燿は、私があの本丸を修復更正する前に真黒さんから頂いた大太刀です。でも、それ以前にもずっと共にいたんですよ」


「えっ?」


「話しても良いですよね?刻燿」


「うん、クロちゃんが良いなら」



隣に座ったまま私の膝に頭を預けて甘えてくる彼の頭を撫でる。身体は大きくても仕草はまるで幼子だ。



「瑪瑙さんは真黒さんから聞いていますか?私の生い立ちとか。心配性の真黒さんのことですから、恐らく「クロをよろしく」とか頼まれてると思うのですが」


「うん。ごめんね。クロちゃんとシロちゃんに何の断りも無しに聞くのはどうかと思ったけど」


「いえ、大丈夫です。ということは母が病死したこともご存知ですね。そこで刻燿の話に戻しますが、刻燿は元々ただの果物ナイフだったんですよ」


「く…!?え…っ?」



他のお客様もいる為か瑪瑙さんは自分で声を抑えようと手で口を塞いだ。それでも驚きから見開かれた目はそのままだったけれど。



「果物ナイフって…。でも今は大太刀でしょ?」


「はい。順を追って説明しますね。刻燿は私が生まれる前から母が所有していたナイフでした」



ずっと入院していた母は、見舞いにと頂いた果物をいつもそのナイフで捌いていたそうだ。本当は病院に刃物の持ち込みはよろしくないけれど、長期入院の母とその人柄をよく知っている担当医から許可を貰っていたらしい。

そのナイフは、元は母の母…つまり私の祖母から頂いたもので、祖母の形見なのだと大事に扱っていた。

そして母が亡くなる直前、そのナイフは今度は私とシロに手渡された。



「今までありがとう。今度はクロちゃんとシロちゃんのことをお願いね」




そう言って、まるで私たちを撫でるような手つきでナイフを撫で、私たちに授けたのだ。



「それからは私がそのナイフを所有し、シロのお見舞いで果物を捌いてあげていたのです」


「そうなんだ。じゃあ本当にずっと一緒にいたんだね、刻燿くんは」


「はい。だから養成所に入った頃の…、重春様と麗華様のことも知っているのです」


「ああ、成る程ね。じゃあ機嫌悪かったのって…」


「瑠璃がいたからです」



重春様と麗華様の間に生まれた子が真黒さんと瑠璃だ。顕現できなくてもずっと一緒にいた彼は、二人の暴言も共に聞いていた。

彼はシロと同じように、二人の子供である真黒さんと瑠璃が例え暴言を吐かない存在であったとしても嫌悪してしまうのだろう。

心のどこかではちゃんとわかってくれている。ただ、時間が必要なだけなのですよね?


 

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