「クロちゃん、何か隠してるよねぇ?」
朝食と朝礼を終えて自室に戻り、さて昨日の戦績を纏めにかかろうかと文机に着くと、早速やってきた来訪者。
刻燿はいつもの調子でゆるゆると話しているが、開けっぱなしにしておいた襖をぴっちりと閉めて間近に座ったところを見るに、心はふざけていないと言っているようだ。
「鍛練してる時はなぁんか上の空だしぃ、長谷ちょんと何度か手合せしてた時もぉ、気持ちが長谷ちょんに向いていないことがあったよねぇ〜。しかも日に日にそぉゆーの増えてるしぃ。腕は鈍ってないけど心ここにあらず〜って感じ?」
「…よく見ていますね」
取ったばかりの筆を置き、彼に向き直ると嬉しそうに頬を緩ませた。
「ふふふ〜。だぁってボク、クロちゃんの刀だよぉ?ちぃさい時からずぅっと一緒にいたんだからわかるよぉ」
「小さい…時…」
「クロちゃん?」
そうだ。刻燿は私が幼かった頃のことも知っている。ならば彼の意見を聞くのもまた私の抱く疑問を解消する近道になるかもしれない。
…でも、話すということは巻き込むということだ。要らない心配を増やし、傷つけてしまうかもしれない。
そんなこと…したくありませんね。
「…もぉ〜、クロちゃんってば色んなこと考えすぎぃ〜」
「え?」
「先のことまで深ぁく考えちゃダ〜メ。ボクはぁ、自分で刀剣になりたいって言ったんだよぉ?クロちゃんのことに巻き込まれに来たのぉ!」
「!」
「クロちゃんの表情だってよぉ〜くわかるよ。みぃんな無表情とか人形みたいとか言うけどさぁ、全然そんなこと無いのにねぇ。まぁここの皆はもうわかってるみたいだけどねぇ〜」
「そう…なのですか?」
「うん〜。長谷ちょんだって気づいてたよぉ。手合せの相手してたら当たり前だよねぇ。でもクロちゃんから言ってくれるの待つんだってぇ。それは皆もだけどねぇ〜」
「皆さん…」
そう…か。そんなにも私のことをわかってくれているのか。自分でも表情に出ているなんて気づかなかったというのに、僅かな変化さえも理解してくれているなんて。
胸の内がほっこりし、逆に心配をかけ気遣わせてしまったことに少しの罪悪感を抱いた。私も主としてはまだまだですね。
「…わかりました。お話ししましょう」
「うん。それは皆に言えることぉ?」
「…………」
「…そっかぁ。じゃあ皆には後でだねぇ」
「すみません…」
「ううん〜、大丈夫だよぉ」
相変わらずニンマリしながら言う刻燿にほっとする。本当に私のことをよくわかっている。小さい頃から共にいたことも考えれば、今の彼はまるで兄のようでもあった。いつもは弟みたいな甘えん坊なのですがね。
あ、でも…
「一人だけ伝えておきたいのですが…」
「薬研くんだねぇ」
「…何故わかったのですか?」
その通りですけど、二十六名の刀剣たちからたった一人を言い当てるなんて。近侍だからでしょうか?
薬研は医学の心得もあるし、私の近侍として一番近くにいてくれている存在だ。彼にならば正直に話しても…見せても大丈夫な気がする。
「だぁからクロちゃんのことはわかるってぇ!クロちゃんが一番頼ってるの薬研くんでしょぉ?」
「まぁ…そうですね。一番負担をかけて…」
「薬研くんは全然負担だとか思ってないよぉ。寧ろもっともぉっと頼ってほしいって思ってる!」
「薬研のこともよく知っているのですね」
「えへへ、ボクの大親友だよぉ!」
「それは初耳です」
「今初めて言った!」
「成る程。ではその大親友を呼んできて頂けますか?今日は食事当番ですから厨か粟田口の部屋にいると思います」
「わかったぁ!」
「刻燿」
「なぁにぃ?」
「…ありがとう」
「!どぉいたしましてぇ〜」
トタトタと廊下を駆けていく刻燿。いつもと変わらない彼のやんちゃな様子にほっと息を吐き、縁側に出て外を眺める。
「…………」
空はどんよりと曇っており、庭に咲いた色鮮やかな花も少々陰っている。纏わりつく空気は湿気でベタベタしていて、いつ雨が降ってもおかしくなさそうだ。
「本当に…何も無いと良いのだけれど…」