「過去夢と濃くなる痣…。これが何を意味しているのかは私にもまだわかりません。ただただ嫌な予感がしてならないんです」
「…確かに、ただの夢じゃねぇだろうな。痣も。いつからだ、その夢を見始めたのは」
「ええと…」
いつからだっただろう?そもそも過去夢はもっと前にも見ることはあった。今回のように継続的に見ることは無かったけれど。
最近になって見始めたのは確か…
「…そういえば、お祭りの次の日くらいからだったような…」
そうだ。お祭りで変な視線を感じて…、でもそれは一瞬のことだったしそれ以降は何も感じなくて、気にせず皆さんと帰ったのだ。
思えばその夜からだったかもしれない。最初は起きれば忘れてしまうくらいの掠れた夢。でも徐々に色濃く頭を占めていく過去。寝たくないと無意識に思っているからなのか寝付きが悪くなって、結果睡眠不足で寝起きまで悪くなる始末。
過去夢に左右されるなんて思ってもみなかった。
「…そうか。もしかするとあの時の視線も関わってるのかもしれねぇな」
「もしも政府の仕業だったら、前の特別任務のことも関係してくるよね。結局あれも誰がやったのかわからず終いだし」
「そうですね。何にせよ、また気を引き締め直さなければなりません。皆さんにも後で全てお話しします」
「おぉーい刻燿ー!遠征の時間だよー!」
遠くから鯰尾の声が聞こえ、時計を見れば九時を回ったところだった。話し込んでから結構経っていますね。
「もぉこんな時間だぁ」
「今日は第二部隊で遠征でしたね。お話しは以上ですから、行ってきてください」
「うん!お土産待っててねぇ〜。あとクロちゃん、無理しちゃダメだからね!」
「はい。ほどほどにしておきます」
結界を解いてあげると自身の依代を持って元気よくタカタカと出ていった。
本当に大太刀のくせしてすばしっこい子だ。果物ナイフの時の名残だろうか?…あ、なんか納得ですねそれ。
なんてことを思っていると薬研が私の隣までずりずりと近寄ってきた。
「どうしました?」
「ちょっと触るぞ」
「え?」
肩を抱かれ、倒されたと思ったら目の前には薬研の顔と部屋の天井。なんだか既視感が…。ああ、夢の中と同じだ。でもあの悪夢のような乱暴さは全く無い。
後頭部に感じるそれは薬研の膝?ということはつまり膝枕されていると?
「普通逆なのでは?膝枕は女性の膝に男性が頭を乗せる図が思い浮かぶのですが」
「今は逆の方が都合が良いんだよ。寝ろ、大将。眠いって顔に書いてある」
「でもまだ書類が…」
「こんのすけが取りに来るのは明日だろ。今日一日休んだところで毎日きっちりやってるあんたの仕事が増えることはない。増えたとしたって俺っちが手伝ってやるから大丈夫だ」
「…………」
「…なぁ。頼ってくれよ大将」
私を見下ろして垂れた薬研の前髪が彼の顔に影を作る。困ったように…でもほんの少し苛立ったように眉を寄せる彼の表情は悔しそうだった。
「何のためのあんたの刀だ。何のための近侍だ。あんたの身体の傷は…、父親から受けたそれが濃くなったってことは、悔しいが俺の力じゃ消せねぇってことだ」
「薬研…」
「ならせめて…、あんたを悪夢から覚まさせる役目くらい負わせてくれねぇか。夢が怖くて眠れてないんだろう?」
寂しそうに微笑んで薬研は私の頭を撫でた。そっと、ゆっくりと触れてくる優しい手付きは、徐々に私の睡魔を呼び起こした。
まったく…本当に…
「……貴方には…敵いませんね」
「俺っちだってそうさ、あんたの真っ直ぐな心には敵わねぇ。でもな大将?ちょっとくらい気を緩めてくれたって良いんだ。重いなら俺や刻燿や…皆に分けてくれ。こんなに男手が揃ってんだから重いなんて思わねぇさ」
「…そうですね」
「ほら、寝ろよ。魘されたらちゃんと起こしてやるから」
瞼の上に手が置かれて光まで遮られる。手の温もりが瞼から伝わってきて本格的に眠くなってきた。
人の寝かしつけ方もよくわかっているのですね。流石は粟田口の兄貴さんです。
…なんて、これ以上ふざけたことを考える余裕も無いくらい…眠い。
「…わかりました。誰か来た時も起こしてくださいね。鏡が鳴った時も…」
「わかってるって。安心して眠ってくれや。おやすみ、大将」
「……おやすみなさい…。ありがと……」
耳に心地良いおやすみを最後に私の意識は深く深く沈んでいった。