その後、鍛練場を出た大将に続いて俺たちも一時休憩しに解散した。と言っても、俺と刻燿はそのまま大将にくっついてってるんだが。

元々大将は突風で誰も被害に遭ってないかを確認に来たんだ。まだ他の場所も見に行くと言うので、それなら手分けして見に行こうといち兄が提案し、厚と和泉守と宗三も別の場所に行っている。

そして、俺たちは厩と畑の確認を終え、庭の方へ向かって歩いている。



「どこも大丈夫そうだな。厩も畑も突風なんて来なかったらしいし」


「そうですね。恐らく私が向けた方角にのみ風が塊となって向かってしまったのでしょう」


「鍛練場に向けてたのぉ?」


「本丸内で確実に武具を付けているのは鍛練している貴方たちだけですから、もし万が一攻撃的なものが出来てしまったら対処できるかと思って…」


「賢明な判断だな」


「でも一言伝えておくべきでしたね。本当にすみませんでした」


「気にすんなって!誰も怪我しちゃいねぇんだから」



そう言って励ますものの、大将はやはり落ち込んでいるようで一人さくさくと歩いていく。

こんな状態の大将も珍しい。やはりまだ夢のこともあるし本調子じゃないってことか?



「大丈夫。すぐに戻るよ、クロちゃんは」



言葉にはしていないのに俺の心を読んだかのように言う刻燿。いつの間に大将から俺の隣に移動してきた?



「初めこそ失敗して沈んじゃうんだけどねぇ〜、でも諦める子じゃないしぃ、すぐできるようになっちゃうから大丈夫!」


「なんでわかるんだ?」


「わかるよ〜。だってボク、クロちゃんが赤ちゃんの頃から知ってるんだよぉ?」


「…そういやそうだったな。そういう意味では刻燿の方が先輩か」


「ふふ〜、羨まし〜でしょ〜?」


「…………」



…正直に言おう。羨ましい。そしてその物言いが物凄く腹立つ!!更にこいつはこういう俺の心情も悟っているから余計にだ!!

ニマニマと笑う刻燿は少し先を行く大将の背中を眺めると、口角を少し和らげた。その表情はまるでいち兄が俺たち弟を見る視線にも似ている。



「クロちゃんはねぇ、自分が強くなる方法を頭ではわかってないんだよねぇ〜」


「頭では?」



つまり身体ではわかっている、と?



「場合によるんだけどねぇ〜。例えばぁ、さっき言ってた試験だったり〜お料理だったりは負けず嫌いが発揮してぇ、"負けない"って気持ちでこなせるよ〜になっちゃうんだけどぉ」


「ああ、やっぱここでも負けず嫌いか」


「うん〜。でもこういう力の場合はねぇ…」





「五虎退どの、大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫です…っ」


「…無理しないで」


「は、はい…っうわっ!?」


「五虎退どの!!」




「五虎退!」



洗濯当番の鳴狐と五虎退の会話が聞こえて顔を前に向ければ、ちょうど洗い終えた洗濯物を籠いっぱいに積んで運んでいる五虎退がいた。しかも何もないところでつまづいた。

ハッとした俺が駆け寄ろうとすると刻燿に腕を引っ張られ、掴まれたままだから前に進めない。



「は…!」


「見て」



放せと言う間もなく指差して言われ、素直にその先を辿れば大将が腕を振り上げたところだった。



「…行け」

ビュワッ!!



静かに紡がれた彼女の声と手に合わせるように風が吹き、五虎退は地面に倒れる寸前に風に受け止められてゆっくりと下ろされた。

籠と洗濯物は下から巻き上げるように上空へと放られ、先に落ちてきた籠を鳴狐が受け止めるとその中に洗濯物が入っていく。



「……!」



気づいた時には全て終わっていた。



「お怪我はありませんか?五虎」


「あ、主さま!はいっ大丈夫です!ありがとうございます!!」


「お見事ですあるじどの!!五虎退どのも洗濯物も無事でございます!まさかもう風を操れるようになっているとは!」


「?そういえば…」


「…無自覚?」


「なんとっ!?」



大将たちのやりとりを遠目に見ながら、いつの間にか腕を放されていた俺は隣に立つ刻燿を横目で見た。



「…さっきの続きはこういうことか。力の場合って」


「そ!クロちゃんは"誰かのため"にしか力を使わないからね〜。力の場合はぁ、助けようとか守ろうとか思ってる時の方が成長するんだよぉ」


「成る程な。でも大将本人は無自覚だから頭ではわかってねぇと」


「ざっつらいと〜、そーゆーこと〜」



へらへらしながら大将の方に歩いていく刻燿の後ろを俺もゆっくりと歩いてついていく。

…よくわかってんだな、大将のこと。

そりゃそうか。大将と過ごしてきた年数は残念ながら刻燿の方が上だし、どうやったってその差が縮まることは無い。他の奴等よりは大将のことわかってたつもりだったんだがなぁ…。

ここでは俺が大将の初期刀で、大将の出陣も笑顔も泣き顔も見たのは俺が最初だと思ってたのに。刻燿には敵わねぇか。



「やーげんくんっ!」


「!な、なんだ?つか近い!!」



いけね、随分考え事してた。こんな間近に刻燿のニマリ顔が来てるとは。昼間だから良いが夜だと恐怖だぞお前の顔は!



「えへへ〜、ボクねぇ薬研くんとこーやってクロちゃんのお話できるのすっごーく嬉しいんだ!」


「は?」


「だってさぁ、刀になるまではお喋りする相手も口もなかったんだよぉ?それにぃ…、クロちゃんが心から甘えられる相手ってキミだけだから〜」


「!」


「それはボクの越えられない壁!薬研くんにしかできないことなんだぁ!」


「俺に…」


「だから嬉しいんだぁ。大親友の薬研くんがクロちゃんにとって心の拠り所になってくれて!ボクともたっくさんお話してくれて!ありがとね、薬研くん!」



そう言うと再び背を向けて歩き出す。

刻燿にさえ越えられないものを、俺が持っているのか?大将にとって俺は心を預けられる存在になっているのか?

もしそれが…本当なのだとしたら…



(…っやべ…、俺っち今絶対真っ赤だ…)



滅茶苦茶嬉しいことだ。こんな真っ昼間にそんな話してくんじゃねぇよ刻燿!と心の中で悪態を吐いても当の本人は既に大将にじゃれついているし、大将はもう風を自在に操れるようになったのか試しに掌に旋風を作っている。

こんな時ばかり俺の心中を悟っちゃくれねぇのな。いや、悟られても困るんだが。



「おーい薬研!鍛練の続きしようぜー!」


「…おー」



はぁ、もういいや。とりあえずは鍛練に集中しよう。大将がまた新たな力をものにしたんだ。なら俺っちも大将に見合う力をつけねぇと。

刻燿が手合せ中に言っていた言葉の意味がよくわかった。
俺ももっと強くなってやる。他ならない大将の為に。










「どわっ!」

「そこまで!」

「ん、もう一本」

「はあっ!?もう五戦連続だぜ?」

「じゃあいち兄」

「休まなくて良いのかい?」

「ああ。なんか今すっげぇ調子良いんだ」

「…やれやれ、そこまで言うならお相手願おうかな」





「そこまで!」

「ぜぇ、はぁ…っ」

「ん、もう一本頼む」

「まっ、まだやるのかい!?」

「更に調子出てきたからなぁ。楽しくてしょうがねぇんだ。もう一本!」

(さっきまでの刻燿みてぇだ…)



「?今日の薬研はいつも以上に血気盛んですね」

「ふふふ〜、楽しそうだねぇ〜」


 

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