午後の演練は特別部隊だけでの訓練で、刀剣は四部隊混ざって連携を取る練習。そして私たち審神者はそれぞれの属性がどういったものなのか、その能力の大きさや組み合わせ等を話し合い特訓した。

前以て翡翠さんから聞いていた通り、能力の相性によっては組んではいけないパターンもあった。特に私の風と瑠璃の火は絶対に合わせてはいけない。火が風に煽られて大火事丸焦げどころでは済まなくなってしまう。

もしそこが本丸でもなければ周りにも何もない場所ならばもってこいなのでしょうけど、それでも自分たちが危うい。翡翠さんの水は必須ですね。


そして瑪瑙さんの地の能力はもう少し訓練が必要らしい。具体的な特徴としては大地を通しての情報収集能力があるのだとか。ただし、大地は広いし本丸は現世と特殊な結界で隔離された空間にある。本丸にいる間も現世の情報を如何にして集められるかが課題なのだそうだ。

ということは私の風でも情報収集できるのかもしれませんね。大地に比べたら伝達は遅いのかもしれませんが、風を読む能力が発揮できるのなら私と瑪瑙さんペアは情報収集に長けたチームになる。特訓あるのみですね。


そうして日が暮れるまで演練し、また次の演練を組む約束をしてそれぞれ解散となった。



「ただいま戻りました」


「おかえりなさいませ」


「おかえり、主!」



長谷部と加州の出迎えに反応してか今剣や乱たちもお盆を手に持ちながら玄関まで駆けてきた。ちょうどお夕飯の支度をしていたところらしい。



「あるじさま、おかえりなさい!」


「ただいまです」



にぱっと笑って出迎えてくれる今剣を見てはたと気づいた。そういえば、いつも何かと抱きついてくるあの子が来ない。



「刻燿は?」


「!」



長谷部を見上げて訊ねると、これから報告するつもりだったのだろうことを言い当てられてか目を丸くした。加州たちも心配そうな顔を見合わせている。

留守中、何かあったようですね。



「実は…、刻燿は体調が思わしくないようです」


「体調?」


「怪我じゃねぇのか?」


「ああ。今日は非番だったし傷一つ負っていない」


「今はどこに?」


「「眠い」と言ってふらふらと危なっかしかったので、昼頃からずっと俺たちの部屋で寝かせています」


「!」



"眠い"?刻燿が?

刀剣男士も肉体を得て人と同じ生理現象は起こるけれど、それにしても昼から今まで眠るものではない。怪我をしているならまだわかるけれど…。



「俺たちにもいつも以上に甘えてきてさ、今は大倶利伽羅が刻燿に膝枕してあげてるよ」


「伽羅ちゃんが?」


「刻燿さん「眠い」って言うのに誰からも離れようとしなかったから、大倶利伽羅さんが「俺が見とく」って言って担いでったの」



大倶利伽羅が…。それはまた意外な…。



「とにかく、はやくいってあげたほうがいいです。あるじさまのことまってるとおもいますよ」


「そうですね」



手入れで治るものなら良いのだけど…、でもそういうものでもない気がする。

普段元気な子が静かになることほど不安に駆られることはない。それにここでもまた"眠り"とは…。今までは人間に起こることだったのについに刀剣男士にまで広がるのか。それとも"私の刀剣"だからなのか。
何にしても早く手を打たないと、他の本丸にまで広まったら大変なことになる。

第一部隊の皆さんには解散を言い渡し、靴を脱いで上がる。

…その時だった。



「…っ!」


「ッ大将!」


「主!?」



突然身体に来たそれに膝が折れて座り込んだ。薬研や長谷部たちの焦る声に広間にいた者も集まってきてしまったらしい。視界の端には江雪の袈裟や小夜の足も見える。

大丈夫だと答えたいけれど、すぐにその言葉が出て来なかったのは私自身が驚いているからだろう。



「大将、どうした?」


「…………ぃ…」


「え?」


「いたい…」


「!?」



どうして?さっきまで何ともなかったのに…。

たった今、本当に突然に表れたその痛みは忘れる筈もない。数年前までずっと味わってきた…身体の内側からジワジワと蝕んでいくような熱にも似た痛み。

シャツの袖口のボタンを外してそっと捲ってみる。



「っこれは!」


「…今朝より…赤いです」



まるでたった今殴られたばかりのように赤く腫れ上がっている。全てではないけれど、足や背中も痛いということは腫れているのは腕だけではないようだ。



「…触れるぞ」



一言断りを入れる薬研に頷けば、彼は触診のために触れてくる。優しく手をとられ痣に触れられるとそこは刺すように痛んだ。



「…っ」


「!すまねぇ」


「いえ、続けてください」


「…骨は大丈夫そうだな。痛いとこ、腕以外には?」


「…赤い痣のあるところ。ほぼ、全身です」



忘れていた。懐かしいとさえ思ってしまうくらいの痛みは当時の記憶をも呼び起こす。沢山殴られて、沢山叫んで、沢山泣いた。

叫ぶことも泣くこともなくなったのはいつからだったか。それは思い出せないけれど、嫌な記憶を懐かしく感じる日が来るとはと一人自嘲した。



「っ、主…」


「大丈夫ですよ加州。これくらい」


「なわけねぇだろ。あんたが"痛い"って言うのは余程だ」


「大丈夫」



皆さんの心配を少しでも減らすため、そして自分に言い聞かせるために呟く。

大丈夫。痛いけどこれは全て過去に受けた痛みと同じもの。あの頃だってずっとこの痛みに堪えながら生きてきたのだから。身体も大きくなった今なら尚のこと、堪えることは容易いでしょう?

一度深呼吸をし、刻燿を見に行かなければと自分を叱責して立とうとすると、今度は通信の音で遮られた。

…瑠璃?



「クロ大変よ!ってさっきより顔色悪いじゃない!?」


「平気。それより何が大変?」


「平気な顔じゃないわよそれ!」


「大丈夫だから。で?」


「っ、落ち着いて聞いてね?今病院来てるんだけど…」





何故?

何故こんなにも心臓が速くなるのですか?

何故こんなにも苦しいのですか?

何故あの頃より痛いのですか?

何故…目の前が暗くなるのですか?



瑠璃の言葉がすぐには呑み込めなくて、周りの音が全て掻き消されたように何も聞こえなかった。










「シロが昨夜から目覚めないんだそうよ」


 

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