瞼を押し上げると襖から漏れた朝の陽射しが顔に当たっていた。少し眩しい。
「よぉ、大将。お目覚めか?」
ちゃぷちゃぷと水音が聞こえて隣を見ると、ちょうど額に乗せていた手拭いを取り替えてくれるところだったらしい。
新しいものを乗せられる前に身体を起こせば、薬研は咄嗟に私の背を支え肩に袿を掛けてくれた。
「おはようございます。一晩中ずっと看ていてくれたのですか?寝ていても良かったのに…」
「少し仮眠はとったさ。それより起きんの早いな。体調は?」
「…気だるさはあまり感じませんが、一番酷いのは目です」
「ははっ!だろうな。泣いてそのまま眠っちまったから結構腫れてるし。他の連中には見舞いは昼からって言ってあるから、午前中に治しちまおうぜ」
そう言って差し出されたのは蒸した手拭い。私がそろそろ起きることを見越して持ってきてくれていたようでまだ温かい。本当によくできた近侍で頭が上がりません。
…今なら素直に言葉に出せるだろうか?いつもいつも心は感謝で溢れているのに、敬語で堅苦しい言葉しか出せなくて…。
ちゃんと、自分自身の言葉で伝えなければ。
「…、薬研」
「なんだ?」
「…ありがとう」
「!」
「凄く…嬉しかった。抱き締めてくれたことも、思いを吐き出させてくれたことも」
「…………」
「この痣を私の生きた証だって…そんな風に思ってくれて、生きてきて良かったって思えた。貴方に聞いてもらえて…、真剣に聞いてくれて嬉しかった。だから、ありがとう」
「………………」
「薬研?」
どうしたのだろう?
瞬きもせず固まった薬研は人形の如く微動だにしない。額用の手拭いを絞ろうとしたところだったからポタポタと水滴が落ちる音だけが響く。
眼前でヒラヒラと手を振ると漸くハッと我に返り、ポリポリと頬を掻いた。
「あー…。
…俺は刀だから、大将のためにできることなんてあれくらいしかねぇんだ。でも、スッキリしたみてぇで良かった。どういたしまして」
「ほっぺた赤い。移った?」
「っ、う、移ってねぇから!水取り替えてくるな!」
「??うん」
熱を測ろうかと頬に手を伸ばしたところで薬研は慌てたように桶を持って立ち上がり出ていってしまった。
変なことを言ってしまっただろうか?
言葉を伝えるのは難しい。ありのまま、全ての気持ちを伝えられるように勉強しよう。
「あ、薬研くん!主起きたらお粥持って…って、どうしたの!?顔真っ赤!」
「っ、なんでもねぇ。なんでもねぇから誰にも言わないでくれ…っ」
「う、うん…。
(うわぁ、薬研くんのこんな顔は初めてだ)」
(大将が敬語とった!微笑んだ!「ありがとう」って!「うん」って!!"頬"じゃなくて"ほっぺた"って!!!マズイ、心の臓が収まらねぇ…っ!)
「…これは主さんと何かあったな。不意打ちでも食らったのかもねぇ」
「薬研があんなにどうようするのはめずらしいですね」
「だな…。耳まで真っ赤だぜ」
「…主は大丈夫かな?」
「あ、あとでお見舞いに行きましょう」
「そうですね!」