むにっ


「…にゃい?(なに?)」


「変な顔」


「ひおい(ひどい)」



ほっぺたつねられた。若干痛いよ。

でもクスクスと楽しそうに笑うシロを見て、心が穏やかになっていくのを感じた。姉妹としてこうして戯れるのも夢で会えればできることだけれど、現実ではシロが起きてくれなければ叶わない。



「クロは加害者じゃないよ。一番被害被ってんのはクロなんだからね!」


「!」


「考えてること私には丸わかりなんだから!」


「…おほえいいあいあ(恐れ入りました)」


「ふふふっ」



今度はつねった頬をやわやわと撫でてくる。優しい手つきで夢でもちゃんと体温を感じられて、思わずその手に自分から頬擦りしてしまった。



「!珍し…、甘えてくれた」


「…ちょっとだけ、肩の力抜こうと思って」


「さては薬研くんに何かされたな?」


「なんで知ってんの?」


「だってこの間のお見舞いで懐に入れてこっそり持ってきてた短刀、薬研くんでしょ?」


「…ご名答」



お見舞いに連れていけるのは二人だけ。でも私の今の悪夢を見続ける状況や祭りでの視線のことを考えて、近侍であり懐刀として持ち歩ける薬研を文字通り懐に入れて連れていたのだ。



「近侍だからってだけじゃないんでしょ?」


「…一番安心するから」



本人には近侍だからとしか言っていないけれど。でも、他にも短刀はいるのに薬研以外は選べなかった。どうしても彼が良かった。

何故薬研なのかと問われれば何も言えない。強いて言うなら名前を託しているからだろうか?名があるから安心する?…それも違う気がするけれど。



「ふふ、そっか。クロにとって薬研くんは大切な存在なんだね」


「大切だよ。薬研も皆も」


「うーん、そういう意味じゃないんだけど…」


「?」


「なんでもないよ。それより、ちょこっとでも甘えられるようになって良かった」



心底ほっとしたように目元を緩めたシロに私も少しだけ微笑んだ。あまり出てないだろうけどシロには伝わったらしい。

あ、ぎゅううっと抱き締められたぬいぐるみの顔も余計に笑って…。ちょっと苦しそうだ。



「あとはこの状況どうにかしないとね!
はぁーあ、私の身体が強くて魔法でも使えれば過去に飛んでぜーんぶ元通りにしてやんのに」


「そんなことしちゃダメに決まって…、!過去?」


「飛ぶ…」



言っていてシロも気づいたように目を丸くした。

過去に飛んで歴史改変を望むのは歴史修正主義者。それを阻止するのが審神者と刀剣男士の務め。養成所でもそう習い、歴史は正しいものでなくてはならないと本能的にもわかっていた。当たり前に、そうであるものだと何も疑わずに務めてきた。だから考えたことも無かった。

もしも、己の過去が改変されたらどうなる?

歴史修正とはつまり過去の改変。偉人たちが遺した歴史も確かに守らなければならない大事な過去だけれど、何もそんな大昔のことばかりを修正したいとは敵も思うまい。



「…クロ、過去に飛ぶってどうやんの?」


「時の政府が造った特殊な装置で時間指定して飛んでる」


「じゃあさ…」



敵は?

敵はどうやって過去に行く?

何を使っている?

そもそも歴史修正主義者って、何?


そこまで考えて、これまで一つ一つバラけていた疑問がパズルのように嵌まりだした。全ての解答が出たわけではないけれど、頭の中がスッキリ整理されていくと同時にサァッと血の気が引いていった。

本当に…それが本当のことならば、敵は…



「…、ごめんシロ。もっと話していたいけど、あまりのんびりもしてられなくなった」


「良いよ。私は祈ることしかできないから」


「必ず助けるから、待ってて」


「気をつけて。今度は現実で会おうね」


「うん」



指を絡め、額をつけて祈り合う。信じてくれることが何よりも力になる。シロがいてくれるから私は前を向いて戦える。



「またね、夜雨」


「うん。またね、朝陽」










「信じてる」



だから神様…

どうかあの不器用な姉に…

救いの手を…


 

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