「クロちゃん!!
うわぁぁぁん良かったよぉぉぉぉ!!」



風を送った直後のことだった。ドタドタドコドコと迫り来る足音が聞こえたと思えば、姿を現したのは同じく臥せっていただろう刻燿。
襖は開けっぱなしだったため勢いのままに抱きつかれ、私は布団に逆戻り。ちょっと重いです。



「良かった…っ。クロちゃんまで起きなくなっちゃうかと思った…っ」



グリグリと頬を擦り合わせてくる。シロのことも誰かから聞いたのだろう。かなり心配させてしまったのだと悟り、すみませんと謝りながら頭を撫でてあげるとまた足音が二つ聞こえてきた。



「刻燿、主の見舞いは昼からだと…って何をしとるか貴様ぁ!」



ふっと息がしやすくなった。身体に掛かっていた重みが無くなり、上体を起こして見上げれば刻燿は長谷部によって首裏の襟を持ち上げられていた。

…首根っこを掴み上げられている黒猫ですね。

その背後には昨夜刻燿を任せていた大倶利伽羅が腕を組んで立っている。



「あぁ〜クロちゃんのほーよーがぁ!」


「何が抱擁だ!主はまだ病み上がりなのだから無理させてはならんだろう!」


「刻燿も病み上がりだろう」


「ボクのはもう治ったも〜ん」


「"も〜ん"じゃない」



はぁ、と項垂れる長谷部。もしかして私が一晩臥せったせいでかなり負担をかけてしまったのでしょうか?今度何かお礼をしましょう。

そして大倶利伽羅が慣れ合っています。長谷部からやんわりと刻燿を解放させてあげています。これは驚きです。あとで光忠に伝えてお赤飯を用意してもらわなければ。



「…主」



手が空いた長谷部は一つ咳払いをすると私の横に腰を下ろした。



「いきなり押し掛けて申し訳ありません。お加減はもう宜しいのですか?」


「大丈夫です。ご心配をお掛けしました。今日の当番表は長谷部が?」


「!はい。薬研から聞いたので?」


「いいえ。薬研はずっと私のことを看ていてくださいましたから、やるなら長谷部かなと。ありがとうございました」


「いえ!これくらいお任せください。早く良くなりますよう祈っております」


「むぅ…。!あ、わかった!長谷ちょん羨ましかったんでしょ〜?」


「はぁ!?」



大倶利伽羅の背に隠れて拗ねていた刻燿は、長谷部を見て何を思ったのかニンマリと笑った。イタズラっ子の笑顔ですね、それ。



「ボクがクロちゃんとぎゅうってするの見て羨ましぃって思った〜?」


「な!?っそ、んなわけあるか!!」


「どぉかなぁ〜?クロちゃんどぉ思う〜?」



あらま、私に振りますか。そうですね…



「…長谷部」


「なんでしょ……!?」


「いつも本当にありがとうございます」



膝立ちになり頭を包むように抱き締めてあげると、彼は石のように固まってしまった。

そういえば、長谷部とはこうして触れ合ったことは無かった。他の刀剣たちは頭を撫でたり抱きつかれたりと何かしら私と触れ合うことが多いのだけど。まぁ長谷部らしいと言えばそうなのですがね。



「私はすぐに治りますから、そしたらまた共に頑張ってくれますか?長谷ちょん?」


「っっ!!!?
し、しゅめ、しゅっ、主命とあらばっ!!失礼します!!!行くぞ猫刀!!!」


「ええっ!!?ボクもっとクロちゃんといたい!!!放せ長谷べん!!!あ〜っクロちゃんお大事にぃ〜!!!」


「はい(長谷べん…)」



また新たな渾名が…。長谷部と刻燿は仲良しですね。



「……もう良いのか?」



二人がドタバタと出ていくのを見送ると、残っていた大倶利伽羅はそっと私の隣に歩みより片膝をついた。

彼から声を掛けてくるのも珍しい。黙って出ていってしまうかと思っていたのですけど。



「大丈夫です。光忠のお粥も食べましたし、薬研から薬も頂いています。すぐ動けるようになりますよ」


「…………」


「…!」


「…無理はするな」



最後にそう言い残し、彼は静かに部屋を出ていった。



「……、…」



たった今撫でられた頭に手を乗せて少し俯く。
暖かかった、とても。ぽんっと触れるだけだったけれど、凄く…。



「……今日は驚かされてばかりですね」


「まさかあの大倶利伽羅がなぁ…」


「初めからいるなら出てきてください」



私の言葉に合わせて部屋に入ってきた薬研は、クスクスと笑いながら大倶利伽羅が出ていった方向を眺める。廊下でずっと待機していたらしい。



「お見舞い、お昼からなのに止めなかったのですね。私は嬉しかったですけど」


「(うっ、赤面直すためとは言えねぇ…)
俺がいたらあいつらそんなに長居しねぇからな。まぁどっちにしろ大将の身体労ってそんなに長居しなかったが」


「そうですね」



光忠は私の食事のため。鶴丸は私を驚かせようとしたのだろうけど、まさか光忠のあんな表情を撮れるとは思わなかった筈だ。思わぬ収穫というやつですね。

刻燿は渋っていたけれど「お大事に」と言ってきた。長谷部は勿論刻燿を連れ戻しに来ただけでお見舞いは後でだと考えていただろうし、大倶利伽羅もそうだ。

たった数分の出来事で、たくさんのものを得た気がする。



「…楽しそうだな、大将」


「はい。楽しいです。早く皆と話したい」



ほんの些細なことで良い。共にいる時間を…楽しく過ごせる時間を感じたい。今よりももっともっと長く感じたい。



「…………」



でも、話すべきことは他にある。

だから…



「…薬研」










私から会いに行こう。




 

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