お昼前、苦痛は感じなかったので普通に広間に顔を出した。勿論、薬研先生という主治医にも許可をもらって。黒いオーラが見えたのはきっと気のせいでしょう。
私から話があることは皆さんにももう伝えてもらってあるし、その為に集まってもらった。私を見ると乱や加州たちが目を丸くして詰め寄ってきて…、完全包囲されてしまいました。
「主!もう大丈夫なの?」
「ご心配をお掛けしました。大丈夫ですよ」
「主さん!あの…」
「乱、昨夜はありがとうございました」
「え…?」
「お陰でよく眠れましたから」
「!うんっ」
「ちょっとぉ?乱くんだけかい?」
「まさか。次郎も、今度お礼にお酒のおつまみに美味しい物を作りましょう」
「ふふふ〜。でも、無理は禁物だよ?」
「はい、肝に命じておきます」
「ほらお前たち、主は病み上がりなのだ。いつまでも立ち話していてはお身体に障るだろう」
長谷部がそう声をかけると、皆さんは両脇に広がるように道を開けてくれた。そんな花道作らなくても良いのですが…。
一段高いそこへ行くのにも薬研が一歩後ろを歩いてくれて、私が座ればその下手側の少し離れた位置に彼も座る。
私が主としてその場に座る時は薬研も近侍としてここに座るのだけれど、今日はちょっとだけ近い気がする。やはり昨日のことがあったからだろうか?
「で、大将の話ってのは何だ?あんまり長話で辛くなるようだったら止めるからな」
「はい。その時は私も言います。もう倒れるのは自分でも御免ですから」
「本当だよ!俺心臓止まるかと思ったんだからね!!」
「すみません。皆さんにももう一度謝らせてください。ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした。あと、ありがとうございました」
本当に彼らには申し訳ないことをした。せめて部屋にまで辿り着いていたら…、なんて今思っても仕方ないことなのですけど。
そして、薬研と乱と次郎は勿論のこと。長谷部には当番表を作ってもらい、今朝のお粥は光忠が…。他のことも皆さんで協力してやってくれたようですし、何より私のことを心配してくれて申し訳なさもありつつ感謝もあった。ずっと看病する側にいたから擽ったいと言いますか、嬉しく感じている自分がいた。
そういう意味を込めてありがとうと言えば、皆さんはどこか安心したように微笑んだ。倒れる前に私が色々と抱えすぎていたからだろう。
これから話すことで彼らにも同じ荷を背負わせる。今まではそれを申し訳ないと思っていたけれど、今回は違う。私は彼らを"頼る"。そう思うだけで肩が幾分か軽くなったと感じるのだから不思議だ。
さてさて、では本題を話すとしましょうか。
「時々あることなのですが、夢でシロに会ってきました」
「シロちゃんに!?元気だった?」
「はい」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!夢だろう?」
もう和泉守からタンマが掛けられてしまいました。早すぎです。
「双子はどこかで繋がっていると言うし、大将とシロなら有り得るだろう」
「小さい頃はよくありました。二人同時に夢でも会いたいと願った時だけ会えるんです」
「へぇ…」
「なんか面白いね」
「そうですね。小さい時はよく夢で遊んだりもしました。それでシロの今の状況を聞いたのですが…」
シロは身体を強制的に眠らされているだけらしく、精神的には起きている。瑠璃様の声が聞こえているのが証拠だろう。傍迷惑だろうけど。
あと私の痣。だんだんと新しいものまで浮き出始めている。父親からのものだけだったのに今では親戚から受けたものまで出てきているのだ。
幸い昨夜はシロとの夢を見ていたから悪夢は無かったけれど、でも実際悪夢を見る審神者は私だけ。敵の狙いは私なのではという話に至った。
そして最後に話した内容が一番重要なものだった。
「シロは言いました。「自分の身体が強くて魔法でも使えるなら過去に飛んで全部元通りにしたい」と」
「いやいやそれダメじゃん。歴史修正するってことでしょ?」
「ふふっ、シロらしいけどね」
「はい。そして問題はそれです」
「それ?」
当たり前過ぎて誰も気づかなかった。誰も疑問に思わなかった問題がそこにあった。
「歴史を修正するには過去に飛ばなければなりません。過去に飛んで、そこで起こる出来事に干渉することで歴史が変わります。そうして歴史を修正しているのが時間遡行軍で、彼らを率いているのが歴史修正主義者」
「そうですね。ですから時の政府がそれを阻止するために審神者を集め、共に戦うために我々が呼び出されました」
「はい。誰もが行き着く簡単な答えがそれです。でも、元を正すと果たしてその通りになるでしょうか?」
「?…どういうことでしょう?」
私もずっと同じことを思っていた。歴史修正主義者という敵がいるから、私たち審神者がその対抗手段として集められたのだと。
それならば…
「歴史修正主義者とは、"何"でしょう?」