「何故、私だったのです?」
私じゃなくても適任はいるだろう。その頃の優秀な審神者だっていただろうし、何故わざわざ私を選んだのか。
誰でも良かったのか、それとも私でなくてはいけなかったのか。返答によっては私の今後の身の振り方も変わるところ。
「…お前が、一番歴史修正主義者側に近い人間だったからだ」
「!」
私が…敵に?
意味がわからず首を傾げると、重春様は何かを思い出しているかのように目を閉じて息を吐いた。
「…お前たち双子の父親、ダイチは私の親友。母親のソラは麗華の親友だった」
「!親友…」
ここから先の話は全て初耳で予想外のことだった。
私たちの両親、ダイチさんとソラさんが結ばれ、ソラさんが双子を身籠ると麗華様は猛反対したそうだ。身体が弱くて子を一人産むだけでもリスクが高いのに双子なんて無理だと。それでもソラさんはその反対を押し切り私たちを産んだ。結果、自身の寿命を縮めてしまったけれど、重春様が言うには最期まで満足そうに笑っていたらしい。
「麗華がお前たちにつっかかるのはソラの死を受け入れたくないからだ」
「…私たちが母さんを死なせたと…、そういうことですね」
「そんなの不可抗力じゃん」
「まぁ、強ち間違いではありませんししょうがないです」
「…………」
ソラさんが亡くなり、父さんが狂った。私とソラさんを見間違えたり行き場の無い怒りで暴力を奮ったり。
…その辺りからの記憶が混在している。
「歴史修正主義者が現れたのは…」
「ダイチの死に関係している。元あった記憶ではどうなっている?」
「買い物に出た帰りに事故にあって死亡したと。でも…」
「"でも"?」
「それにしては…傷が酷すぎたような…」
父の御遺体は見た。既に棺の中に納められていて、子供に見せるには酷だからと顔の窓しか見せてくれなかったけれど。でも、普通の乗用車に跳ねられた交通事故だと、頭の打ち所が悪かっただけだと言うにはあまりにも酷かった。
だって、顔なんて見えないくらい包帯がグルグル巻かれていたんだもの。
「そうだ。本来であればお前と買い物に出て事故にあい、お前を庇って死亡する。しかし修正された過去では事故ではない。歴史修正主義者による攻撃、時間遡行軍によってダイチは殺された」
「っ、…それは、何故です?父さんも時の政府と繋がりがあったのですか?」
「いいや、それは無い。確かに私と麗華が時の政府に属していることは知っていたが、ダイチが関わったことは一度も無い」
「では…」
「お前を引き込む為だ」
「ぇ…」
「敵がお前を歴史修正主義者として引き込む為にダイチを殺した」
「私…を……?」
引き込む?
敵側に?
その為に父さんが殺された?
理解するのに苦戦している間も重春様の話は止まらない。
「もう何十年も前のことだ。歴史を遡る力を作り、歴史改変を望んだ者が歴史修正主義者。しかし歴史改変に多くの犠牲者が出ることを知り脱退…新たな勢力として時の政府ができた。
反発する二つの勢力は大きな戦争を起こし、結果歴史修正主義者は現世を追われ時の狭間へと身を潜めた」
「…………」
「その戦争により互いに戦力は削られていた。時の政府は直ちに審神者を集め、刀剣男士を従えて時を守る為に戦うことを選んだ。多くの仲間を集めて失った勢力を取り戻そうとな。
そしてそれは敵も同じ。戦争で時の政府側に残っていた歴史修正主義者…所謂スパイたちは、時の政府が霊力の高い人間を審神者として集めていることを知っていた。ならば考えることは一つ、"審神者になる前にこちら側に引き込もう"とするだろう」
「その白羽の矢が立ったのが私ということですか」
「その通りだ」
誤算だったようだがなと呆れたように言う重春様に私も溜め息を吐いた。
まぁ、そりゃ誤算だっただろう。
「ダイチを殺したのは痛め付けられながらも元に戻ると信じていたお前を更に絶望させるためだ。幼子に両親の死は堪えるものだからな」
「…………」
「しかし、お前は予想以上に心が強かった。絶望に染まらず親戚でも同じことが繰り返されようと直向きに前だけを向いていた。審神者養成所に入ってからも同じ。そしてお前はついに審神者になってしまった」
「なってしまったとは酷いですね。私が審神者になったのは貴方たち上層部のご命令でしょう?」
失敗は許さんとこの部屋で言われた声は今でも頭に響いている。
「それより、抜けていますよ。何故歴史修正主義者が父を殺した時点で時の政府は正してくれなかったのです?」
その時に正しい時間に戻していれば私は今こんなところで重春様と話すことはなかっただろうし、瑪瑙さんや翡翠さんだって巻き込まなかったのに。
何もかも全て話して頂きますよ。
そう目で訴えると重春様は再び重い口を開いた。
「先程言った通りだ。歴史修正主義者を洗い出す為にお前の過去を使わせてもらった。理由は一番適任だったからだ」
「どういう意味で適任だったのでしょう?」
「歴史修正主義者に狙われていることがまず大前提としてある。次に他人との関わりが少ない人物が上げられる。お前の場合は自分から関わりに行くのはシロのみで他は全くの無関心だった。過去が暫く正されないままでもそう大きな変化は訪れない」
「大きな変化の可能性もあるとは考えなかったので?」
「そうなった時点で用済みとみなして正しに行く準備はできていた」
「…………」
「話を戻そう。お前が選ばれた理由はもう一つ。そう簡単には折れない心を持っていたからだ」
母の死、父の暴力、父の死、親戚の暴力、人身売買、養成所でのイジメ等々。
思い返せば色々あったなぁと自分でも思う。そのどれもが私の負けず嫌いで乗り切っていたのだから心が強い…のだろうか?
「選ばれた理由はわかりました。では、"用済み"ということはスパイさんが捕まったのですか?」
「ああ。真黒と瑠璃、瑪瑙、翡翠から聞いた。特別任務での審神者に暗示をかけた者、祭りでの視線、今回の審神者の眠り…全て同一人物の仕業だった」
「一つずつお聞きしても?何故そんなことが起こったのか」
お祭りでの視線はともかく、厚の元主さんの死と審神者の眠りは納得できる理由が見つからない。これまで聞いた話だと、私の痣とは無関係ということになりそうだけれど。
「特別任務の審神者もお前と同じく歴史修正主義者側からの接触があった者だ」
「!」
「ただお前と違い直接アプローチを受け、断ったようだが真名縛りで呪詛を受けた。死に様はお前が見た通りだ」
「…父の亡骸と同じ。そういうことですか」
「「あの子を狂わせる良い材料になるかもしれないからね」って、嫌な顔して消えてった」
厚から聞いていた"狂わせる良い材料"とは境遇のことだろう。父と審神者さんは同じように狂って死んでいった。そんな中で気が狂って堕ちた厚と狂わなかった私。
「恐らくその人は、審神者さんの御遺体と父の御遺体を重ね合わせて私が狂うことを望んだのでしょう。空振りでしたけど」
「はは、ほんと強いなキミは」
「強いんだか鈍いんだか…」
どっちでしょうね?たぶん鈍いんだと思いますけど。
「では、審神者さんたちの眠りは?捕まったのですからもう起こされたのですか?」
「いや、それは…」
ドオオォォォォン!!!
物凄い地響きと共に建物が揺れた。一瞬のことだったけれど、それと同時に現れたいくつもの気配が私たちに緊張を走らせる。
窓の外を見れば、時の政府全体を覆うように張られていた結界が歪み、そのひび割れた隙間から時間遡行軍が攻めてきていた。
「父さん!!アイツが脱獄した!!」
「…!」
大慌てで部屋に入ってきた真黒さんに重春様も流石に驚いた表情を見せた。脱獄した人物とはまさに今話していた人物のことだろう。
「チッ、誰も連れてねぇ時に敵襲かよ。オッサンこの刀剣男士連れ込み禁止制度やめた方が良いんじゃね?」
「刀剣男士とは極力関わりたく無いものでな」
「あんたの事情なんか知るかっての」
「瑪瑙さん、キャラ壊れていませんか?」
「ぶっ壊れてんな。でも嫌いな奴にはとことん乱暴になるぜコイツ」
そうだったのですか。新しい発見です。
と、そんなことより今敵襲とは厄介ですね。私も今日は薬研も連れていませんし…
───ピシッ
「ッ…!」
「!クロネコ?」
胸に刺すような痛みが走った。記憶を取り戻していた時とは違う。とても嫌な感覚で、同時に消失感が生まれた。
たくさんあった内の一つが消えかかっている?
これは…私の霊力…?
私の…刀……?
私の……
「ッ!!?」
「クロネコ!?」
「クロちゃん!?」
呼ばれるのに答えられる余裕は無かった。
それどころじゃないくらい私の心臓は嫌な音を立てていて、早く帰らないとダメだと頭が警報を鳴らすようにガンガンと痛くなっている。
駆け足で外に出れば偶然にも政府に来ていたらしい審神者と刀剣男士が戦っていた。でも奇襲をかけてきた敵の方が多く、私の行く手も阻まれる。
槍の突きを屈んで避け、掌に鋭い旋風を巻き起こす。
「退け。お前に構っている暇は無い」
グッと足に力を入れて踏み込み、腹にその風を叩き込めば槍はその後ろで戦っていた大太刀を巻き込んで吹っ飛んでいった。
それを横目に鳥居を本丸に設定して一気に飛び込む。どうか間違いであってほしいと願いながら。
でも、わかっていた。
こういう時の願いは誰も叶えてはくれないと。
本丸に踏み込んで真っ先に見えたのは、時間遡行軍と対峙している刀剣たち…
刀を振り上げている男性と…
「折らせはしない!絶対に!!」
その刀の真下にいる一期。
「いち兄!!」
「いち兄ーッ!!」
そして、一期が胸に抱いている…
人の形を保てなくなり、刻まれた亀裂がピシピシと音を立てて大きくなっていく…
「薬研!!」
「…………」
やげん…?