「………が!!」
「……ろ、…が………い」
「けど…!!」
何だか騒がしい声で意識が浮上した。いつも喧しいのは瑠璃様なのだけど、どうやら今回は違うらしい。
二人の男性の声…、瑪瑙さんと翡翠さんだ。彼らにしては珍しい怒っているような声音だ。近くにはこんのすけと重春様もいるらしい。じゃあここは重春様の書斎で私が寝ているのはソファーか。
このまま狸寝入りするわけにもいかず、とりあえず起きようかと目を開けて頭を持ち上げる。
「……、…ぃった…」
「!?クロ様!!」
思った以上にガンガンする。頭の内側から金槌で打たれているみたいだ。
目の前で見上げてくる毛玉がいるけど涙で視界が…。ああ、こんのすけだ。こんのすけの声で他お三方も私が起きたことに気付き、瑪瑙さんと翡翠さんが慌てたように駆けてきた。
「クロちゃんっ、大丈夫?」
「起きられるか?」
「…はい…、すみません」
「ゆっくりで良いよ」
瑪瑙さんに背を支えられながら起き上がる。だらしなくも背凭れに身体を預けて少しだけ咳き込んだ。泥水でも飲んだ気分だ。
「まだ辛いんじゃない?」
「…大丈夫です。すぐ治まりますよ」
「お前も言ったらきかねぇ女だな」
「瑠璃様よりはマシでしょう?」
「それは違いねぇな」
「瑠璃いないからって酷いなぁ」
クスクスと笑う瑪瑙さんにつられて翡翠さんも口角が上がった。二人とも仲が良いんだなぁなんて思いながら、何故この場に彼らがいるのだろうと疑問が浮かぶ。
「お二人も呼ばれたのですか?」
深緑色の封筒が届いたのだろうか?あれは重春様だけが使う封筒で、宛てられた審神者だけが開封できる特殊なものだ。
「いや。俺と瑪瑙はそこのオッサンに問い詰めてたんだ」
「"クロちゃんの過去、変えられてるのに放置ですか〜?"ってね」
「え…」
オッサンって…。問い詰めてたって…。
そんなことよく重春様本人の前で言えますね?
……重春様よりこの二人の方が強いのだろうか。真黒さんより強いのは確かだけれど。
ふと手元を見ると黒いスーツが私に掛けられていた。これは先程見た、紛れもない重春様のもの。
…正直、とても戸惑いますね。
彼は私に対してこんなにも優しかっただろうか?
あまり接したことが無いからわからない。
本当にどういった風の吹き回しだろうかと重春様に目をやれば、彼もまた私を見つめてきた。
「混乱しているか?」
「……少し」
記憶の波は治まった。けれど、これまでの記憶と新たな記憶が混ざり合っているようで、でもちゃんと分離している。
過去の私が…、一部だけ二人いる。
気持ち悪い。
「お話ししてくださるのでしょう?」
「ああ。真実を全てな」
どうやら彼自身も私に話すことは決めていたようだ。この瞳は仕方なく話すという諦めではない。発する言葉に責任を持つという決心が見えた。
恐らくもう瑪瑙さんと翡翠さんはその真実とやらを聞いたのだろう。やりきれないような表情を見るに、私にとって良い内容でないことは明白だった。
「まず結論から言おう。お前の中にあった記憶は歴史修正主義者より攻撃を受けた後のもの。つまり偽りだ」
「…………」
「最近見ていただろう過去夢が本来あるべき記憶になる。これは理解しているか?」
「はい。まぁ、ここに来る前までは逆だと思っていましたが」
過去が変えられたから痣が増えたのだと思っていた。痛みが収まらないくらいに父や親戚の暴力が酷くなったのだと。
でもそれは違った。真逆だった。これまで信じて疑わずに歩んできた人生が改変後のものだったのだ。
違ってほしいとどこかで思っていたけれど、こうもあっさり告げられると簡単に受け入れられるものなんだなぁとやけに落ち着いている自分がいた。それはもう否定しようがない記憶が自分の中に帰ってきたからなのだろう。
これが結論ならば、解消されない疑問を答えてもらうとしよう。
「何故、今になって正したのですか?」
当時は把握できていなかったということだろうか。時間遡行軍がいつ現れたのかまでは私の記憶にも無いからわからないけれど、その頃にだって時の政府はあって審神者も刀剣男士も戦っていた筈だ。
それに私と関わった時点で…否、その前から私の近辺のことは洗いざらい調べ尽くしている筈。改変があったかどうかなんて調べた時にわかるものだろうに。時の政府なら特に。
今更私の過去を正したところで何になるのか。
「用が済んだからだ」
「…………」
「オッサン、言い方ってモンがあるだろ」
「事実だ」
「…チッ」
瑪瑙さんがだいぶ荒れています。隣に翡翠さんがいるから大丈夫…ですよね?翡翠さんまで同じようにならないことを祈ります。
…で、用済み…と。
「"用"とは?」
「時の政府内にいる歴史修正主義者の洗い出しだ」
「その為に私の過去が使われたと?」
「ああ」
私の問いかけに淡々と答える重春様。普通なら瑪瑙さんのように怒って良いところなのだろう。
もうどうにもならないし何を言っても無駄だとわかっているから、私もただ知りたいことだけをぶつけるけれど。