「…薬研」
ピシピシと皹が入り神気が漏れ出てくる度に、私の不在中に彼が戦っていた様子が流れ込んでくる。
「!結界が揺らいだ…?」
「主に何かあったのか!?」
「わからねぇが…。長谷部、本丸は任せたぜ。大将のこと追ってくる」
「その必用はありませんよ」
「……あんたは…」
──そう、私が倒れなければ……
結界が緩んで敵が来ることは無かった。
「ほぅ…、率いておるのは時間遡行軍だな」
「つまり、お前が時の政府に潜り込んでた歴史修正主義者か。そっちからのこのこやって来るとは驚きだぜ」
「ふふ…」
「ここには何の用だ?残念ながらあんたの期待に答えられるようなモンは何もねぇんだが」
「少々クロちゃんに関するお話と、取り引きをしようと思いましてね」
「…取り引き?」
お話は…重春様から聞いたものと同じだ。
私の元あった過去が修正後のものだったことや、用が済んで正されたこと。正しい過去になったことで痣が増えたこと。正した理由。時の政府は全て知っていて、私の過去はこれまでずっと利用されていたこと。
皆さんさぞ驚いたことだろう。そして動揺した筈だ。その前に私が話していた答え合わせとは真逆の答えだったのだから。
──私があの時点で話していなければ……
皆さんに余計な混乱を招くことは無かった。
そして、取り引きの内容は……
「貴殿方はクロちゃんの痛みを軽減させたい。時の政府の理不尽な契約からも解放させたい。そうですね?」
「そりゃそうだな。で?」
「ならば、私たちの行動に一度身を委ねてみては如何ですか?」
「歴史改変を見逃せと?」
「"クロちゃんに関する過去改変"のことです」
「!?何を馬鹿なことを!」
「クロちゃんにとっては改変後の過去が真実だったもの。時の政府が正した過去こそ偽り。私たちが再び干渉すれば彼女の痛みは今よりマシにはなります。否、無くすことだって可能です。虐待の過去を無かったことにすれば良いのですから。まぁ、その後彼女が審神者になるかは運次第ですがね」
「一応聞くが、あんたは見返りに何を求める?」
「───────」
「…………」
「どうします?」
……随分と勝手なマネを…。
私がいつ過去改変を望んだというのか。他人の考えることは理解できない。
それは彼も同じ意見だったらしい。
「愚問だな。断る」
「そうですか。交渉決裂ですね」
その後、薬研は蘇芳さんによって左肩を撃たれ、時間遡行軍による襲撃が始まった。火を放たれて燃え盛る本丸。外に出た皆さんを名で縛り相討ちさせ、運良く御守りで破壊は免れているけれど、もう次は無い。
ここからどう挽回する?
どうやって皆を守る?
薬研の亀裂はどんどん広がっていく一方で、嫌な汗が額を伝う。
どうしたら…
「治してあげましょうか?」