ふ、と浮上した意識。少しだけ力を入れれば簡単に瞼が上がるだろう。

ああ、やっと起きられる…、と思った矢先。



「早く逃げるわよ瑠璃!」


「待ってよお母様!あたしはシロを守るの!」



耳に入ってきた声にストップがかけられた。

確認するまでもない、瑠璃とその母親の声だ。私とクロにとって今では義母にあたる存在。…義母だなんて認めないけれど。



「二人とも落ち着いて」


「こんな時にこんなとこで口喧嘩してる場合じゃないでしょ?」


「はぁ、めんどくせぇ奴らだな…」


「兼さんてば…」



お?なんかいっぱいいる?

聞いたことある声は石切丸さんと加州くん。他二人は知らないけど、たぶんクロが寄越した刀剣男士だろう。


何を大声で騒いでいるのやらと考える。

耳障りなのはこの二人の声だけでなく、遠くからキンキンと刃物のぶつかるような音が聞こえ、ドーンという地響きも感じられた。どうやら外では喧嘩か何かが起こっているらしい。そして私がついさっきまで見ていた夢…。つまり、敵に襲われているのは現世もそうなのだと気づく。

だから麗華は瑠璃に逃げようと言ったのか。ここも危ないからと。なのに瑠璃は私を守ろうと…。クロに言われたからか知らないけれど、普段はそんな素振り見せないくせにお節介なんだから。嬉しいけどね。



「何を言ってるの!いつ目覚めるかもわからない子なんて放っておきなさい!自分の身を守ることを考えなさい!」


「お母様こそ何言ってんの!?いつ目覚めるかわからなくてもシロはまだ生きてんのよ?ううん、死んでたとしてもあたしは守るわよ!シロも大事な友達なんだから!」



…どうしよう。嬉しいこと言われてるけど起きたいのに起きられない。タイミングが無い。てか死んでないからね?生きてるよ、ちゃんと。

石切丸さんたちも止めたくても止められないんだろうな、このマシンガン女たちのこと。会話に隙間も無いし、やっぱ親子なのねぇ。喧嘩するなら他所でやれやバカ親子め。



「っ、そんなのが友達?」


「そんなのって言わないで!お母様にだって友達いるでしょ?友達守って何が悪いのよ!」


「…友達友達って…っ、その双子は悪魔なのよ瑠璃!」


「はあ?」



はああ?何言ってんだこのババア。お前の方が暴言悪魔じゃねぇか。

声音がさっきまでより低くなって、悲観的に叫ぶ麗華の様子に瑠璃も戸惑っているらしい。



「こいつらさえいなければ私にだって友達いたわよ!この双子が生まれてから最悪よ!!」


「なに…言ってるの?お母様?」


「おいおい、今のは聞き捨てならねぇなぁ」


「俺たちの主とシロの悪口言わないでくれる?」


「…怒るよ?」


「主様はお優しい人です。シロさんも、悪魔じゃありません…!」



あれ、鳴狐さんと五虎ちゃんもいるんだ。たくさん寄越したね、クロ。病室いっぱいいっぱいなんじゃない?

…と、そんなことよりこのバカ親子のこと本当にどうしよう?みんな止められないよね?間が悪い気もするけど起きるかな、そろそろ。みんなが可哀想だし。



「私の友達奪ったのはこいつらよ!こいつらが生まれなければソラはまだ生きられた!」



!ソラって…、母さん?

奪った?

……そうか、つまり母さんとこの女は友達で、身体弱いのに私とクロを産んで死んじゃったから…。だからこの女は私たちに何かといちゃもんつけてくるのか、納得。

納得はしたけど随分酷い言われようだな。私たちが生まれて何が悪いのよ。こいつも過去ばっか見やがって、夢の続きみたいで腹立つなぁ。



「ソラが身籠ったって聞いて応援しようと思ったわよ!でもなんで双子!?ただでさえ病弱だったのに双子なんて産んだらどうなるか!」


「それでも産むって決めたのはソラさんなんでしょ?ならお母様が文句言う権利無いじゃない!」


「うるさいうるさい!たった一人の親友奪っといて幸せに生きられると思ったら大間違いなのよこの死神どもが!」


「っ!?」


「こいつらなんて生まれてこなければ良かったのよッ!!!」


パァアアンッッ!!!


 

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