「ふふふ、何を迷っているのやら。外してしまえば良いではないですか、そのチョーカー。外せるでしょう?貴女の力ならば」



またそういうことを言う…。私が外せないことをわかってて言うのだから本当に腹が立つ。



「その挑発にも乗りたいところですが、それはやめておきます」


「ふふ、そうですか。それはそうですよね。自分で無理矢理外せば貴女にもその反動がくるのですから」


「…………」


「最悪の場合、反動のせいで動けなくなり貴女は自滅。流石にそんなバカなことはしませんか、残念です」


「ペラペラとお喋りな人ですね。他人を気にする余裕は貴方の方こそ無いでしょう?」



援軍が来るのも時間の問題だ。このまま私の本丸に居続けることは、敵からすれば自ら袋の鼠になることに等しい。

なのに蘇芳のこの余裕な顔。何が彼にこんな自信を溢れさせているのか。…まぁ、大方彼の術に関係しているのだろう。



「私が何も考えずに貴女を誘いに来たと?それこそ、そんなバカな真似を私がするわけないじゃないですか」


「多くの審神者が眠りについているから安心というわけですか?」


「ええ、勿論!」


「!!」


ギンッ!!



太刀との鍔迫り合いから漸く抜け出せたところで、間近に迫ってきた蘇芳とまた刃が交わった。

岩融たちと対峙していたのに掻い潜ってきたのか?と思えば、彼らは多くの遡行軍に囲まれていた。
…また増えた。



「岩融、今剣。まだいけますか?」


「はぁっ、とうぜんですあるじさま!ぼくをあなどらないでくださいね!!」


「がっはははは!面白い!!貴様らの命貰い受ける!!行くぞ今剣!!」


「はい!!」



流石、昔から一緒に戦ってきただけのことはある。今剣が素早く飛び跳ねながら敵を翻弄し、彼が大きく跳ねればその背後から岩融が振り幅の広さを活かして薙ぎ倒す。二人とも良い連携をとれている。

…でも、それもいつまで保つか…。



「主、余所見してると危ないぜ?」


「どれ、俺たちが行くとしよう」


「鶴丸、三日月…」


「私も行きます故、ぬしさまのご心配には及びませんよ」


「小狐丸。ありがとうございます。全部終わったらまた皆さんでお茶をしましょう。お茶請けはいなり寿司で良いでしょうか?」


「!!是非とも!!!」


「おーおー、小狐丸のやる気がぐんと上がったなこりゃ」


「ははは。俺も頑張るとするか」



笑って駆けていく三人にほっと息を吐く。これで岩融たちは大丈夫だ。あの三人も手負いではあるけれどそこまでの傷ではない。

その内隙を突いて数人だけでも手入れできれば…。そんなことを考えては蘇芳の邪魔が入るから埒があかない。



「人の心は弱い。懐かしく幸せな思い出に囚われれば、現実に戻ろうなどと誰も思いません。特に審神者はね。貴女だってそうでしょう?」


「…どういう意味です?」


「母親が亡くなってからの父親との生活、悲惨ですねぇ」


「っ!」



ニヤリと上げた口許に嫌な汗が滲む。こちらに耳を傾けていた者たちもピクリと反応した。

今ここでそれを公言するとは、大胆なことをする人だ。私の過去は皆さんに全て話してある。今ので殺気が強まったのを肌で犇々と感じた。



「毎晩父親に抱かれては、いないところで吐き出して。頑張ろうと前を向きながらも貴女の瞳は真っ暗でしたよ。
父親が亡くなれば今度は親戚の若夫婦からの暴力。痛み苦しみ自分に問うのです、"何故自分がこんな目に合っているのか"とね」


「…………」


「苦しくて堪らない中でやっと時の政府の目に留まり、絶望から抜け出せました。貴女の場合はその後もチョーカーで制限されて地獄が続きますが、買い取られた時安心しませんでしたか?」



胸の奥で淀んだ何かがざわざわと膨らんでいく感じがした。これは"怒り"だ。私の過去をこんな人に語られたことへの。勝手に見られていたことも不快だ。

煩い。耳障り。

ぐっと握り締めた刻燿を力一杯振り降ろすとガンッと大きな音を立てて交わった。刻燿から神気が溢れ、彼も怒っているのが伝わってくる。



「お話が長いですね。つまり他の審神者も同じだと言いたいのでしょう?」


「おやおや、不機嫌になってしまいましたか?人形だった貴女にもやっと感情が備わってきたのですねぇ」


「うっざいねぇあんた。あんたの物差しでクロちゃんを語んないでくれる?クロちゃんは人形なんかじゃない!」


「ふふ、ですが私の目にはそう見えたのでねぇ」



ギチギチと音を鳴らして鍔迫り合いが続く。どちらも一歩も引かず、込められた霊力がぶつかり合っては風を生む。



「話を戻しましょうか。
そう、皆貴女と同じように辛い過去を背負っている。中には心底下らない過去もありましたけどね。でも人間誰しもが幸せな人生を歩んではいない。夢を見ては落胆する、それが人間の不幸」


「だから、夢で幸せを見せて過去を取り戻させようと促している?」


「ええ。今この時に応援に来させない為でもありますが、審神者が歴史修正を望み私たちの元へ自ら来て頂くこと。それが私の望みです。まぁ一番は貴女に来て頂きたかったところなのですが、ねぇ!」


「っ!」



払われた反動で数歩後退すると太刀が間に入ってきた。それと交えることになりその奥にいる蘇芳を見れば、構えていたのは刀ではなく黒光りするモノ。



「死ね」



ガゥン!!










一つの銃声が耳に強く残った。


 

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