人数で言えばまだ敵の方が多い。でも、手入れを施した彼らの方が圧倒的に有利なのは目に見えて明らかだ。遡行軍は彼らに任せておいて大丈夫。シロのことも第三部隊が守ってくれている。あとは元凶をどうにかするだけだ。
瑪瑙さんも同じことを考えていたのだろう。一定の距離まで歩を進めて蘇芳と対峙していた。
「く…っ。成る程、貴方の属性は"地"でしたね。既に結界と隔離された土地にまで移動できる術を…。だからここに入れたというわけですか」
彼の地の力は大地を通じた情報収集能力。更に極めれば隔離した空間を繋げたり切り離したりと高度な術まで扱える。
演練の時には情報収集もまだ時間がかかると言っていたのに、もう力を自在に…。さすがというか、敵には回したくないですね。
「それもあるけど、俺もともと結界術得意だから。まぁ今回のは流石に手こずらされたけどな。あんたのせいでこの本丸の所在地あやふやになってたから、政府との繋がりも不安定で移動できる状態じゃなかったし」
「なのに何故…」
「どうやって繋げたかって?それはクロちゃんのお陰かな」
「え?」
「クロちゃんがチョーカー外そうと爆発寸前まで霊力上げてくれたからだよ」
つまり、私たちが戦っている最中に時空の歪みが増えたことで政府との繋がりにまで影響され、いくら結界術が得意な瑪瑙さんでもとても移動できる状態になかった。そんな中、待ちきれなかった私がチョーカーを外そうと膨れ上がらせた霊力が彼にとっては目印となり、地の力で時空の足場を固めてここに繋げたと。
無理矢理外すなんてやってはいけないことだったけれど、結果的に彼らを導けたのだから良かったのだろう。
「自分で外したら反動が来るのは俺も知ってたからね。大急ぎでこの本丸と繋いで飛び込んで、俺たちに気付いた薬研くんがクロちゃんのチョーカーを斬った。彼が外せば反動は無いからね。ま、他にも理由はあったみたいだけど」
シロを見やって笑う瑪瑙さんに私も微笑で返した。その理由は今は語らなくても問題ないことだとお互いにわかっているから。
「あとはお前を始末すりゃあ終わる」
「っ、素手で戦うと?現世でもよくそれで戦えましたねぇ。返り血だらけではないですか」
瑪瑙さんの服は渇いたところから茶色くなっているけれど、見たところ全身血塗れ。白いワイシャツだったから余計酷い姿だ。自分の血ではないようだけど、現世で相当暴れたのですね。
その手に持ってるモノって…メスじゃあ…?
どさくさに紛れて手術室からパクってきましたね?
「しょうがねぇだろ?誰か呼ぼうったって政府の鳥居もあんたの術式のせいで使えなかったし。俺の本丸と繋げても良かったけど、クロちゃんの本丸の方が重要だったしさ」
「私が言うのもなんですが、お疲れでは?」
「ん?まさか!こんなの序の口だって!それに俺もこのまま一人で戦ったりしないしさ」
……"一人で"?
彼の言葉が少し引っ掛かって首を傾げていると、彼はニィッと口角を上げパチンと指を鳴らした。
「第一部隊。出番だ」
そう言う彼の隣、何もない空間が歪み別の景色が見えた。切り取られたそこにあるのは本丸で、待ってましたと言わんばかりの武具に身を包んだ六人がこちら側へと飛び込んでくる。
共に特別任務をこなしたにっかり青江さんと浦島虎徹さん。お祭りで会った平野藤四郎さんと秋田藤四郎さん。そして審神者の初期刀としてよく見かける蜂須賀虎徹さんと山姥切国広さん。
「随分と焦らしたねぇ、主。待ちくたびれたよ」
「悪い悪い、援軍呼ぶなら敵大将のいる本拠地でと思ってな」
「えっへへ!でもやっと戦えるね蜂須賀兄ちゃん!」
「ああ、漸く主の相方の力になれるというものだ。彼女がそうかい?」
「ああ、挨拶は後でな。
…早速だが、命令だ。手段は問わねぇ、俺の相棒いじめた敵を殲滅しろ。行け!!」
「「「「「はっ!!」」」」」
合図が送られると瑪瑙さんの第一部隊はそれぞれ敵に向かって散っていった。一人で数体を相手にする皆さんの元へと駆けつけ、あっという間にその数が減っていく。
先程まで苦労して減らしてきた遡行軍はもう増えることは無い。それを見て歯を食い縛るように顔を歪めた蘇芳は、さっと印を組もうとする。
「"動くな"」
「!?言霊を…!印は…!」
「今の私は全ての霊力を解放している状態。印など組まずとも発した言葉のみで言霊になる」
それに加えて薬研の眷属になったことで彼の神気も少なからず纏っている。対する蘇芳は少し術が使える程度の人間だ。結果はもう見えた。
「こ…の……ッ!」
だが蘇芳はまだ悪あがきをするつもりなのか、全身に力を入れて無理に振りほどこうとしているようだ。彼も今までに多くの力を使い、体力だって殆ど残っていないだろうに。
「やめておけ。動けば今度こそあんたの首が飛ぶぞ」
「…っ!」
背後から首元に刃を添えて静かに諭すように、しかし威圧するような低い声音を発する薬研。鋭く光るそれは彼が望めば一瞬で頸動脈を掻っ斬るだろう。
そうしている間に全ての遡行軍が討伐され、残る敵は蘇芳のみ。