蘇芳や政府との戦いが終わって、早くも一ヶ月が過ぎた。
あれから私たちは瑪瑙さんの本丸のお部屋を借りながら、時にはクロの本丸建て直し状況を見に行ったり(監視とも言う)、時には駆けつけてくれた審神者たち一人一人の元にお礼をしたり(クロは律儀だねぇ)と少し慌ただしい生活をしていた。まぁ、申し訳ないことに私はお留守番なんだけどね。
私の傍には常に新撰組の刀剣四人の誰かがいてくれて、何不自由なく住まわせてもらっている。今は厨でお手伝い中。両隣には加州くんと大和くんがいてくれて、食事当番の彼らから絹さやの筋取りを教わっているところだ。
「で、ここをツーッと…」
「ツーッと」
「そうそう、上手い上手い」
「おおっ綺麗に取れた!これ面白いね!」
「どこに楽しさ見出だしてんのよ」
「うっせー手伝わねぇならあっち行けバカ瑠璃」
「そこまで言う!?」
「まぁまぁ主」
身を乗り出す瑠璃を近侍の石切丸さんが抑える。瑠璃がいるとどうしてもこう…本音が出やすくていけないね。石切丸さんには申し訳ない。因みに瑠璃は遊びに来ただけだ。
ついでに言うと翡翠さんも来てくれて瑪瑙さんと一緒に手合せしてるらしい。翡翠さんは術の方が得意で身体を動かすのは苦手なんだとか。だからよく瑪瑙さんと稽古するんだって。瑠璃も行ってくれば…、あ、ダメか。壊されるね、色々と。
「よし、そろそろお茶にしようか」
食事当番じゃない光忠さんがなんで厨にいるんだろうって思ってたら、皆のおやつを作ってたんだね。あの多人数分を一人で山盛りに…。
「わぁ、美味しそう!おはぎ?」
「そうだよ。シロちゃんはおはぎ好き?」
「好き!小さい頃に食べて以来だから十六年ぶりくらいかな」
「じゅ…!?」
「十六年ぶり!?おはぎが!?」
「…そっか、病人食だけだったんだよね」
「うん」
ゲロみたいなマズイのばっかりだったから、この間瑪瑙さんの手作り料理を初めて食べてすごく感動した。こんなに美味しいものがこの世にあったんだ!って。だってクロの手料理すら食べたこと無いんだよ?
でも瑪瑙さんの料理はクロも驚くくらい美味しかったみたいだから、彼のは本当に特別美味しいんだね。あまりその味に舌が慣れすぎないようにしないと。
「今更だけど、病人食じゃなくなるのは大丈夫なの?いきなり普通の料理とか…、おはぎって結構甘いけど」
「大丈夫だよ!今までずっと入院してたから私のこと病弱で定着しちゃってるだろうけど、食べ物とかは本当に大丈夫なんだ。過呼吸だけ気にしてれば良いから、運動しなければ問題ないよ」
「そっか。じゃあ美味しいものいっぱい作っていっぱい食べてもらわないとね!」
「わーい!楽しみだよ光忠お母さん!」
「はは(わぁ、この子からも"お母さん"呼びか…)」
苦笑いされたけど嫌じゃなさそうだし良いよね!
だってお母さんみたいなんだもん!
ということで、すれ違う皆にお茶だとお知らせして回りながら大広間に向かった。瑪瑙さんの刀剣男士とクロの刀剣男士を合わせて五十人くらいいるからとても賑やかだ。同じ顔の人もいるけど、なんとなく雰囲気が違うのはそれぞれの主が違うからかな。双子みたいで面白い。
全員揃っただろうかと見回すと最後に薬研くんが現れた。言うまでもなくクロの薬研くんだ。でも一緒にいただろうクロの姿がない。刻燿もだ。
「クロと刻燿は?」
「大将は部屋に鏡忘れたって取りに戻った。刻燿は厠。先に行って休んでろって言われてな」
「鏡なんかいらないでしょうに」
「大将の鏡はいつ本丸再建の連絡が来るかわかんねぇからな」
「クロは忙しいんだよ、瑠璃と違って」
「シロ!!」
瑠璃に向かってベッと舌を出し、おはぎに手を伸ばす。一口食べるともちもちの餅米の食感と香り、程好いあんこの甘味が広がっていく。
「どう?シロちゃん」
「お〜いし〜いっ!美味しいよ光忠お母さん!美味しすぎて泣きそう〜っ!!』
「おはぎで!?」
「病人食よっぽど不味かったんだね…」
「シロ、こっちのきな粉のも美味しいよ」
「食べる!!あとその緑のも!!」
「ずんだ餅ね」
「よしよし、たんとお食べ。また美味しいもの作ってあげるからね」
「「「「「(光忠お母さん…)」」」」」
幸せだ…。食べ物が変わるだけでこんなに幸せになれるんだね、クロ。
クロが政府から解放されたことで、私も解放された。本当は病気を治してからって思ってたし、いけないことなんだろうけどね。でも別に手術をしなくたって生きていけるもの。
"病は気から"!本当にその通りだと思う。運動できないっていう縛りはあるけれど、だったらそれ以外のことで役に立てば良い。自分ができることをすれば良いんだって、私もあの戦いの中で学んだから。
その為にも腹拵え!おはぎいっぱい食べるよ!