ふと薬研くんを見たら自分のとは別のお皿におはぎとずんだ餅を取り分けていた。間違いなくクロの分だね。さすが和菓子好きなあの子の近侍だ。
そんなことを思いながらまた一口きな粉のおはぎを食べる。あ、こっちも美味しい。そうして暫く談笑していると薬研くんの隣にいる乱ちゃんが徐に口を開いた。
「…薬研ってさ」
「ん?」
「いつ主さんに告白するの?」
「ぶふッッ!?ゲッホげほっ!!」
思わぬ発言に薬研くんはちょうど含んだお茶を吹き出して咳き込んだ。
「ちょっと薬研汚い!」
「誰のせいだ誰の!!」
「まぁまぁ薬研。でも俺も気になってたな〜」
「兄弟…」
鯰尾くんが乱ちゃんに便乗すると次々にクロの刀剣たちから声が上がった。恋バナに興味津々に瞳を輝かせたり、五虎くんや前田くんもそわそわとし始める。
瑪瑙さんや翡翠さんは事の成り行きを見守るつもりなのか自分のおはぎを食べ進めていた。なんか大人だなぁ。それに引き換え…
「…ふふっ」
「主?どこに行くんだい?」
「しーっ!面白そうだから本人連れてくるのよ」
「えっ!?あ、主っ!!」
「あーあ、行っちゃった。良いの?シロちゃん」
「言って聞くなら誰も苦労しないよ」
「確かに。お疲れ石切丸」
「はぁぁ…」
あーあー、本当に疲れてるね石切丸さん。自分を厄払いした方が良いと思うよ。
…瑠璃は誰にも止められないし、一先ずは私も成り行きを見ることにしよう。
「なんでンな話が出てくんだよ」
「当たり前でしょ?薬研しか主さんの近侍してないし」
「それは俺が大将の名を預かってて都合が良かったからだ」
「眷属化もしちゃったしね」
「それも俺が不甲斐なくもやられちまったからであって、大将もそこまでやるつもりは…」
「ないわけないじゃん!だって口移しで血を飲ませてくれたんだよ?」
「………は?」
ぽっかりと口を開けて固まった薬研くん。彼は事後に目を覚ましたらしい。つまり、されたことすら知らないのだろう。
その場に居合わせていなかった私も驚いた。
「へぇ、クロが口移し…」
「ふ〜ん、クロちゃんやるねぇ」
「感心するとこか?」
何があってそんな事態になったのかは知らない。薬研くんがやられそうになって、たぶん彼が気を失ったからクロは口移しで血を飲ませて契約を結んだのだろう。
確か、互いの血を体内に取り入れることで"血の契約"が完成するんだったかな?もしかすると口移しする時に薬研くんの血を誤って飲んじゃった可能性も否めないけど…。
でも、契約とか自分を縛るものに関して敏感なクロが、"血の契約"で縛られる危険があったのに薬研くんにそこまでしたってことはクロも…。
「戦ってる最中もさ、薬研が神隠しするようなこと言っても主さん動じなかったし」
「そ、それは本気じゃなかったから…っ」
「だとしても主だって「貴方が望むなら」って委ねてたしね。悪乗りでも嫌な相手に腕回したりしないでしょ?主は」
「もう間違いなく両思いだよ!!」
「っ、だからって…!」
乱ちゃんと鯰尾くんに言い迫られながら薬研くんはなんとか反論しようとする。少しだけ頬っぺが赤いから満更でもないんだね。
でも彼はぐっと堪えるような表情をして俯いた。
「…駄目に決まってんだろ。俺は刀で大将は人間だ。眷属化はさせちまったけどまだ人として生きる道は残ってる。大将の幸せを俺が奪うわけには…」
「!薬研くん…」
…薬研くんは本当にクロのことが大事なんだね。クロの刀だから似ちゃったのかな?大事なものに対する愛情があの子にそっくりだ。
大事だから自分が我慢する。大事だから幸せを願う。その幸せの中に自分を含めないの。クロはずっとそうして生きてきて、ずっと不幸だった。私の幸せを願っては親戚でも政府でも傷ついて…。
でも、それはもう終わりで良いんだよ?クロも、勿論薬研くんも、もう自分の幸せを考えて良いんだよ?
そう言おうと口を開いた矢先に私の肩がポンと叩かれた。
「じゃあ俺が告白してくる」
「は?」
「え?」
え?鶴丸さん?
右隣で立ち上がったのはクロの鶴丸さんだった。私は言うタイミングを逃されたらしい。
準備運動するみたいにぐっぐっと屈伸する鶴丸さんに皆揃って目を丸くする。
「主には薬研がいるから身を引こうかと思ったが、その気が無いなら俺が行こう」
「つ、鶴さん本気?」
「ああ本気だ。俺だって薬研の次に主と主従契約した刀だ。過ごした時間は薬研と同じくらいにはあるつもりだし、驚きを提供するのに何度も顔を合わせてきたからな。全部失敗に終わっているが俺の印象は強く残っているだろう」
「ははは、全敗か」
「では告白が成功すれば一勝というわけだな!」
「おう!勝利を掴んでくるぜ!」
「っ、誰がさせるかよッ!!」
ニィッと笑う鶴丸さんが出ていこうとすると、薬研くんは敷居の前でその行く手を阻んだ。眼鏡の向こうで鶴丸さんを睨むその藤色の輝きは鋭い。
対する鶴丸さんは余裕な笑みで真っ向から受け止めている。
「何故止めるんだ?別に俺が主に告白しようと薬研には関係ないだろう?」
「関係大有りだ!なんで大将をあんたにやんなきゃなんねぇんだよ!」
「"やる"って薬研こそ何を言ってるんだ?あの子は薬研のものではないだろう?自分であの子を幸せにできないなら他の誰かに奪われるのは当たり前のことだ。あの子と共に幸せになる気はないんだろう?眷属化だって仕方なくしちまったみたいだし」
「確かに大将は俺のもんじゃねぇし誰のもんでもねぇ。誰かに奪われるのも仕方ねぇと思ってたさ、それで大将が幸せならって」
「だったら」
「だがッ!!」
怒鳴るような声を上げた薬研くんは、ダンッと音がするくらい強く鶴丸さんの胸ぐらを掴み引いた。喧嘩に発展するんじゃないかってくらいの迫力に驚く。
大丈夫なんだよね?
ちょっぴり心配になっていると左から伸びてきた手がきゅっと私の手を握ってくれた。見れば大和くんが苦笑している。
…あ、瑪瑙さんも欠伸してる。三日月おじいちゃんもお茶啜ってる。つまり茶番ってこと?
「…ざけんじゃねぇよ」
内心ほっとしていると、地を這うような低い声が耳に届いた。それこそ同一人物かと疑うくらいの。
その声の持ち主は勿論薬研くんだ。兄弟の乱ちゃんや鯰尾くん、一期さんまで瞬きすらせずに目を瞠る。
「たった今わかったぜ、鶴丸の旦那。俺は大将が…あの子が誰かのものになんのを黙って見てられるような男じゃねぇ。あんたにあの子が奪われるくらいなら俺が貰う。あんただけじゃない、刀剣男士だろうと人間だろうと関係ねぇ。あの子を幸せにすんのも守るのも俺だ」
「この御時世、そんな甘くはないぜ。現に主はこの間まで首輪で繋がれてたんだ。また政府が力尽くで強行突破しようとしたらどうする?」
「神隠しでもなんでもするさ。あの子が本気でそれを…、俺を望んでくれるなら。…いいや望まれなくても俺は隠す!惚れた女を守る為なら何だってしてやるさッ!!」
「っ、だとさ。主」
「は…?」
暫くの沈黙の後。薬研くんの剣幕に圧倒されながらも鶴丸さんが彼の向こうへと視線をやる。それを追った先には…
「…っ、…ぁ…の……」
瑠璃に引っ張られて来たらしいクロが薬研くんを見て固まっていた。