「……ん?」
「どぉしたの〜?」
「…身代わりの術が解けたようです」
鳥居を潜り政府の敷地へと入ったところで立ち止まった。
どうやらもう身代わりが役目を終えてしまったらしい。その記憶が私の中へと戻ってくる。額に手を添え目を瞑る私を刻燿は隣で待っていてくれた。
──瑠璃に手を引かれて大広間に行くと、聞こえてきたのは薬研と鶴丸の声。いつもより幾分か低い薬研の声は…怒っている?
ハッキリと言葉が聞こえたのは薬研が鶴丸の胸ぐらを掴んでいる姿が見えた時だった。
「………ぇ…」
「クロちゃん?」
「俺は大将が…あの子が誰かのものになんのを黙って見てられるような男じゃねぇ。あんたにあの子が奪われるくらいなら俺が貰う。あんただけじゃない、刀剣男士だろうと人間だろうと関係ねぇ。あの子を幸せにすんのも守るのも俺だ」
大将?
あの子…?
守るって……
「この御時世、そんな甘くはないぜ。現に主はこの間まで首輪で繋がれてたんだ。また政府が力尽くで強行突破しようとしたらどうする?」
「神隠しでもなんでもするさ。あの子が本気でそれを…、俺を望んでくれるなら。…いいや望まれなくても俺は隠す!惚れた女を守る為なら何だってしてやるさッ!!」
「…!?」
鶴丸も「主」って…。
神隠し…?薬研が?
「惚れ?…どういう…」
「クロちゃ〜ん、本丸で何かあったの?」
「ぁ…、その…」
どうしよう?刻燿にどう説明したら…。否、見えたことそのままを言えば良いのだろうけど、内容が…。
って、こんなことしてる暇は無い。身代わりの私が消えたのはあの会話のすぐ後だ。聞いてしまったことが薬研にバレて瑠璃に捕まった直後、頭の整理がしたくて逃げるために術を解いた。
このまま立ち止まっていては薬研本人が追ってくるに違いない。だって彼が何か言おうとしたのを聞かずに逃げてしまったんだもの。
「っ、すみません刻燿。事情は後で説明します。今は暫く薬研から身を隠したいです」
「!おっけー、今ので全部わかったよ〜」
「え…」
「薬研くんに好きって言われたんじゃないの?」
「!?なん…」
なんで今のだけでわかるんですか?刻燿って本当にエスパーなんじゃ…?
「ふふふ〜見てればわかるって!そんなことより逃げないとなんだよねぇ?んーと、どこに…」
「クロ、早い到着だね」
「!真黒さん」
タイミングが良いのか悪いのか。真黒さんは建物から私たちの姿を見つけて迎えに来てくれたらしい。ここに来た目的は彼と話をする為だ。しかし…
「すみません、真黒さん。少々事情が変わりましてお話しするのはまた今度にさせてください」
「え、それは良いけど…。何かあったの?そういえば今日は刻燿が一緒なんだね。薬研くんじゃないんだ?」
「っ!」
「マクロン、今はその薬研くんと鬼ごっこしてるんだぁ。ボクとクロちゃんはお外に逃げるから、マクロンは薬研くんのこと足止めしといてねぇ〜」
「は?え?」
「行こうクロちゃん!」
「はい。すみません、時間稼ぎお願いします真黒さん」
「ええっ!?」
呆ける真黒さんを残し、刻燿に手を引かれながら彼に隠形の呪を施して政府の門を潜った。行き先は決めていないけれど、とりあえずは頭の中を埋め尽くすこの感情と鳴り止まない鼓動を何とかするためにも薬研から離れることに専念した。
「惚れた女を守る為なら何だってしてやるさッ!!」
「っ!」
それでも…、薬研からどんなに離れても、この声だけはずっと頭から離れてくれなかった。
「…あんなに必死なクロは初めてだな。時間稼ぎって言われてもなぁ…」
「真黒の旦那!」
「(げっ!?もう来ちゃったの!?)
や、やぁ薬研くん。どうしたんだい?」
「こっちに大将来ただろ?どこ行った?」
「い、いやぁ見てないけど…」
「大将の部屋にあんたからの呼び出しの手紙が置きっぱなしだったんだが?」
「!!!
(クロやらかしたね!?証拠残してどうすんの!?)」
「さぁ、大将の居場所吐いてもらおうか?」
「ひぃぃっ!!(クローーッ!!?)」