薬研と一緒に現世から帰ったその夜。瑪瑙さんの本丸ではどういうわけか宴が開かれた。
瑠璃による乾杯の音頭と共に…



「クロ&薬研カップル誕生を祝して!乾杯!!」


「「「「「かんぱーい!!」」」」」



皆さんノリノリでグラスを掲げ、各々が選んだお酒を口にする。私と薬研はというとそんな彼らの前…所謂お誕生日席に座らされていた。瑠璃が言ったように主役は私たちということらしいけれど…



「なんでこんなことに…」



目の前に並ぶ豪華な料理の数々…。光忠たちだけでなく瑪瑙さんまで一緒に作ってくれたらしい。

メインで中央に置かれたそれは"冬野菜添え牛フィレ肉のステーキ"という名前からして高級そうなもので、赤ワインソースをかけて食べるのだとか。彼の料理は本当に絶品で見た目も華やかで、私が食べて良いものなのかとつい瑪瑙さんと料理とを見比べてしまった。にっこり微笑まれたから食べてってことなのだろう。

その他には鯛の活け作りにシーフードマリネ、数種類のケーキが並んでいる。



「美味しいね!」


「そうだね。幸せ?」


「勿論!クロも幸せ?」


「うん」


「良かった!」



シロも楽しそうで良かった。彼女の人柄もあって皆さんと打ち解けるのは早かったし、ストレスも感じていないようだ。本丸再建が終わってまた環境が変わってしまうけれど、これなら慣れるのもすぐだろう。

それにしても…



「お付き合いを始めただけでここまで盛大に祝われてしまうものなのですか?」


「さぁなぁ…。流石にやりすぎなんじゃねぇか?」



宴が始まって時間が経ってもまだ納得がいかず、隣に座る薬研を見れば彼も同じことを思っていたようだ。顔を見合わせて首を傾げると別方向から乱と加州の声が上がった。



「主さんも薬研もわかってないなぁ!ボクたちみんないつ二人が付き合うのか待ってたんだよ?」


「そうそう。いつまで経ってもくっつかないからもどかしくてさ」


「そう…なのですか?」


「うん!それでさ、主さん?」


「はい?」



一旦言葉を区切った乱は席を立つと私の左側へとやって来てニコニコと笑いながら耳打ちするように、しかし声はそんなに抑えずに問いかけてきた。とても楽しそうな声音で。



「薬研に何て告白されたの?」


「!?」


「ブハっ!?」



こ、告白…?

頭の中で反芻している間に隣では薬研が盛大にお茶を吹き出した。乱のその問いでほぼ全員の視線が私へと集まる。たくさんの目が注目しているせいでどこを向いても私の目と合ってしまい、しかも聞かれた内容が内容なだけにすぐに答えることができない。



「そ、れは…」


「それは?」



「夜雨が欲しい。夜雨の恋心が欲しい。夜雨の全てが欲しい」




「っ!」


乱「主さ〜ん?」



思い出すだけで心臓が破裂しそうなくらいにバクバクと激しさを増し、顔に熱が集まってくる。薬研がくれたその言葉のせいでもあり、こんな多人数の目の前でそれを言うなんて私にはレベルが高すぎて…

どうしたら良いかなんてわからず、さ迷わせた視線の端で捉えた逃げ道。さっとそこに近寄って顔を埋めた。



「おおっ?」



薬研の肩に縋るように。



「っ、か…勘弁してくだしゃぃ…あ」


「!」


「「「「「"しゃい"!?」」」」」


「っ!!(なんで今噛んだの私…っ)」



よりによってこんな時にやっと口に出せた言葉がソレって…っ



「あぁああっもう主可愛い過ぎっ!可愛いよぉ〜!!ほんと可愛くなったよね!そう思うでしょ安定!?」


「はいはいそうだね。でも珍しいな、主が噛むなんて」


「あはは、すっごい動揺してるねクロ」


「笑ってる場合か?めちゃくちゃ真っ赤だぜ?」


「まぁでも主さんを助けるのは僕たちじゃないからね」



爆発しそう…。
寧ろ爆発して無くなってしまいたい…。

顔を伏せていても尚収まらない熱と羞恥から目尻に溜まってきた涙。これからどうこの場を納めようかなんて考える余裕など皆無だ。



「ここまでにしてやってくれや」


「!」



私の顔を見せないようにする為か肩口に顔を押さえるように頭に手を添えられた。確認するまでもなく彼の手だ。

相変わらず心臓は鳴り止まないけれど、一番近くに彼がいてくれてこうして庇ってくれている。そう思うだけで安心する自分がいた。



「乱、あんま大将のこと苛めてくれるなよ?」


「ごめんごめん。でも薬研だってそうだよ?主さんはボクら全員の主さんなんだから、ずっと独り占めするのはダメだからね?」


「ああ。だが大将の"男"は俺だけだからな」


「!や…、やげん?」


「祝ってくれて感謝してるし嬉しい限りだが、一応念を押しとくぜ。この子を泣かせたら相手が誰だろうと俺が直々に柄まで通してやるからな」


「「「「「!!!」」」」」


「そんじゃ、悪いが俺たちは先に休ませてもらうぜ。しっかり掴まってろ大将」


「え……わっ!」



耳元で囁かれ体勢を変えたと思えばあっという間に抱き上げられてしまった。言われた通りに彼の首に腕を回せばスタスタと歩いて出ていこうとする。

チラッと後ろに目をやれば呆ける者、微笑ましく見つめる者と様々だ。そんな中、白い片割れと一瞬目が合ったと思えば大和守と共に「お幸せに」と手を振りながら口パクされてしまった。

また顔が熱くなってきた…。


 

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