運ばれたのはこの本丸で私とシロが借りている部屋だ。いつもならここに布団を二つ並べて眠るのだけど、どういうわけか既に敷かれた布団は一つだけ。しかも枕元にある置き手紙には…



ごゆっくり〜  瑠璃



「あのバカ瑠璃…」


「あいつら揃いも揃って用意周到だな」


「まさかとは思いますけど薬研が頼んだわけではないですよね?」


「俺が瑠璃にそんなこと頼む男だと思うか?」


「思いません」



これはたぶん瑠璃とシロの策略だろう。否、私たち以外全員だろうか?

だからシロは「お幸せに」なんて言ったのか。彼女は今晩はここではなく粟田口の部屋で皆と眠るのだろう。そうなると薬研の寝るスペースが無くなるというわけで…



「仕方ないですね。もう一つあった布団まで片付けられているようですし、一緒に寝ますか」


「大丈夫なのか?」


「何がです?」


「間違いは起こさねぇと誓うが、俺だって男だ。警戒するだろ?」



目を細めて真剣に聞いてくる薬研。彼が言っているのは私の過去のことだ。父から受けた痛みなど…トラウマが振り返さないかと心配してくれているのだろう。

本当に優しいひとだ。



「大丈夫。私は薬研のことを信じているし、貴方はそんなことしないでしょう?」


「ちっとは警戒してくれや。好いた女と寝ていつまで理性が保てるかなんて俺にもわからねぇぞ?」


「その時はその時です。それに私だって貴方のこと大好きなんですよ?」


「!」



本丸に帰るまでの道中、薬研とは一つだけ約束をした。私の神域入りについてどうするか。

私は来年で十九歳でまだまだ人としては子供だ。だから成人式を迎えるまで神域入りを待ってもらうことにしたのだ。それまでならまだ人として成長できる。

そしてそれに伴って、彼も身体の関係は待つと申し出てくれた。付き合い始めたばかりというのもあるけれど、私の心の準備が整うまで、私がちゃんと大人として胸を張れるまで待ってくれるのだと…。同じことを考えていたのか私の心を読んだのか、薬研には頭が上がらない。



「今はまだ待たせてしまうけれど、間違いがあったとしてもそれは私の責任です。わかっていて共に寝ようと言っているのですから」


「ははっ、やっぱ敵わねぇな」



じゃあ寝るかと言って横になる薬研の隣に、少し緊張したけれど私も潜り込んだ。自然と彼が腕枕をする形になり、布団が掛けられ向き合う形で包まれる。



「苦しくないか?」


「大丈夫です。薬研は重くないですか?」


「大丈夫だ。ただな…」


「?」


「…敬語」


「あ…。ごめん…」



いつもの癖で敬語で話してしまっていた。薬研といる時は無意識に外れていることが多いらしいのだけど、今は完璧に敬語でしたね。薬研は敬語の私はお気に召さないらしく口を尖らせた。



「せっかく付き合うことになったんだ。できればシロくらい軽い口調で話してほしいんだが?」


「シロくらいだと軽くなりすぎるような…」


「それくらいが良いんだよ。いつも言ってただろ?もっと甘えてくれ」



そう言って髪を鋤くように撫でられ、彼の温もりも相まって眠くなってきた。



「…じゃあ」


「!」



薬研の腕に乗せていた頭をずらし、彼の胸に擦り寄った。甘えてくれと言うのだから甘えさせてもらおう。

彼からトクトクと速い心臓の音が聞こえてくる。余裕そうに見えて実は彼も同じように緊張しているのだと思うと、ほっとすると同時に笑えてきた。



「ふふ。どんどん速くなるね、心臓」


「そりゃそうさ。どんだけあんたを好いてると思ってる?こんな甘え方されたら心の臓ももたねぇって」


「それを言うなら私のもそう。こうして薬研が一緒にいてくれるだけですごく幸せ」



貴方が隣にいてくれるだけでどれだけ安心するか、どんなに心強いかわかってる?

他の誰でもない貴方だからあの戦いでも頑張れた。



「そうか。でもまだまだ足りねぇぜ?大将はこれからもっともっと幸せになるんだからな」


「なら、薬研も一緒にいてくれなきゃ嫌」


「!」


「あと、二人の時は名前が良い」


「はははっ、可愛いこと言うようになったな夜雨。じゃあ皆の前で結界張れない時も"クロ"って呼んでやろうか?」


「うん」


「…そうやって素直に頷く時のあんた、好きだぜ夜雨」



頭を抱くように腕が回され、ちゅ、と髪に口付けられた。擽ったくて微笑を漏らせば彼も楽しそうに笑ってくれる。



(…幸せ…)



スリッと頭を擦りつけると猫みたいだなと言ってまた笑った。私が猫なら飼い主さんは薬研だ。こんな風に甘えられる存在は貴方だけなのだから。シロにだって私のこんな姿は見せたことないもの。

優しい温もりに包まれてだんだんと瞼が重くなってきた。



「もう寝るか」


「ん…。でも勿体無い」


「勿体無い?」


「薬研といる時間が減っちゃう…。寝たら話せない。眠る時間が勿体無い」


「(!?おいおい今そんな可愛いこと言うなよ!俺の理性が飛ぶ!)
睡眠不足はお肌の敵とも言うんだろ?寝ようぜ」


「そんなこと誰が言ってたの?瑠璃?」


「瑠璃がそんな女らしいこと言うわけねぇだろ。乱と加州」


「ああ…。うん、瑠璃なわけないか」


「眠れ、夜雨。明日も明後日も…これから先時間はたっぷりあるんだから」


「…そうだね」


「おやすみ、夜雨」


「おやすみなさい、薬研」





私が眠りにつくのは早かった。最初は緊張して眠れないかと思っていたのに、安心していたからか朝までぐっすりと…。今までの睡眠不足を補うかのように熟睡できた気がする。そういう意味ではこれを仕込んでくれた瑠璃にも感謝…かな?

そしてその翌朝。とうとう私たちの本丸再建が終了したとの連絡が入り、新たな本丸での生活が始まるのだった。


 

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