「は…はろ…いん??」


「違うよ!ハ・ロ・ウィ・ン!!」


「って何だ?それが何かあんのか?」


「今日はそういう日なんだって、さっき鶴丸さんに聞いたの!薬研はこの衣装に着替えてね!」


「は?おい乱!」



いつもより一層派手な服装に身を包んだ乱兄さんは、薬研兄さんに衣装を押し付けると厚兄さんをさがしに出ていった。

いきなりのことに押し付けられたその衣装を手に立ち尽くした薬研兄さんは、先程同じく衣装を渡され着替えたばかりの僕に説明を求めて見つめてくる。

突然来て着替えろと言われればそれは驚きますよね。僕もそうでしたから。



「ハロウィンとは、おばけの姿に仮装して「とりっく おあ とりーと」と言いながらお菓子を集める行事なんだそうですよ」


「とりっく…?また変な行事をと思えば鶴丸の旦那の入れ知恵か」


「"お菓子か悪戯か"という意味らしいです。お菓子をくれなければ悪戯して良い日なんだそうで…」


「ああ、旦那の驚き提供に持ってこいな日ってことか」



乱も乗るわけだと溜め息を吐く薬研兄さんに苦笑する。乱兄さんもそういう行事は大好きですからね。可愛いおばけになるんだとウキウキしていました。



「…で、前田のそれは白猫か」


「はい。どうですか?」


「ま、悪くねぇんじゃねぇか」



真っ白な服に真っ白な猫耳と尻尾をつけただけですが、乱兄さんは可愛いと言ってくれました。薬研兄さんもこの反応ということは似合っているということなのでしょう。喜んで良いのかはわかりませんが。

乱兄さん曰く短刀全員で仮装してお菓子集めに行こうということで、既に今剣さんや小夜さんにも衣装が渡っている。

突然行けばお菓子を持っている方は少ないでしょうけれど、でも鶴丸殿のことだから皆さんにハロウィンの告知はしてあることでしょう。お菓子が無くても悪戯できる日なので、あっても無くても関係なく楽しめます。



「…浮かれ過ぎねぇように止める役目は必要か」



と言うと薬研兄さんも渡された衣装に着替え始めた。渋々ではなさそうなので薬研兄さんはどちらでも良いのでしょう。僕では乱兄さんを止められませんから薬研兄さんがいてくれるととても心強いです。

因みに乱兄さんは悪魔。五虎退は黒猫。厚兄さんは狼男。今剣さんは天使。小夜さんは木乃伊男。
そして今着替えている薬研兄さんは吸血鬼です。ちゃんと牙まで用意している辺りは流石ですね乱兄さん。

薬研兄さんが着替え終わるとちょうど他の短刀たちも集まってきて、早速本丸お菓子集めに向かった。










───粟田口部屋。



「「「「「とりっく おあ とりーと!!」」」」」


「!!!!」


「いち兄?おーい?大丈夫かー??」


「…一期。可愛い弟たちに身悶えするのは構わんが早くお菓子を渡してやれ。目をキラキラさせて待っているぞ」


「あ、鶴丸さん!楽しい行事教えてくれてありがとう!」


「おう!そら、俺からはマシュマロだ。他でも楽しんでこいよ」


「はーい!」










───左文字部屋。



「「「「「とりっく おあ とりーと!!」」」」」


「「!!!!!!」」


「江雪殿、宗三殿。大丈夫ですか?」


「あははは!皆可愛い格好してるじゃないか」


「兄さま?」


「!…失礼しました。そんな包帯だらけの衣装で来るとは…。本当に怪我はしていないのですよね?」


「大丈夫。着るのは大変だったけど怪我はしてないよ」


「私たちからは飴を。兄様、後で主にかめらをお借りしましょう。写真に納めねば勿体ないです」


「そうですね」










───三条部屋。



「「「「「とりっく おあ とりーと!!」」」」」


「がはははははッ!!!これはまた愛らしいおばけが来たものだ!!」


「ははは。皆、似合っているぞ」


「おかしくれなきゃいたずらしちゃいますよ!」


「それは困りますね、ぬしさまに手並みを整えてもらったばかりですから。これを差し上げましょうか」


「くっきーですね!ありがとうございます!」










そうして本丸にいる刀剣たちの元を訪ねて回っていたのですが、大体巡り終わったところで乱兄さんは僕たちを振り返って立ち止まった。



「よし!次は主さんのとこ行こう!」


「あ、主様のところですか?」


「おいおい、大将にもやんのか?」


「当たり前でしょ!…だって主さんは行事とかあまりやったこと無いんだよ?」



真剣に言う乱兄さんに薬研兄さんも黙った。

乱兄さんの言うことは尤もで、主君は七夕さえも忘れていた方です。もしかするとハロウィンも忘れているか、やったことが無いかもしれません。鶴丸殿から情報が行っていれば別ですが、主君を驚かせる為にわざと言っていない可能性もありますね。

薬研兄さんも同じことを考えたのでしょう。はぁと一つ溜め息を吐くと仕方ないというような苦笑を漏らした。



「もし悪戯することになっても変なことはすんなよ?」


「わかってるって!じゃあ行こう!」


 

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