───厨。



「「「「「とりっく おあ とりーと!!」」」」」


「…………」



主君の部屋に主君はおられずどこにいるのだろうと散々歩き回った結果、厨でそのお姿を発見した。

どどどっと押し寄せてきた僕たちを見た主君は、ぱちぱちと瞬きをして作業していた手を止めてしまいました。隣にいる燭台切殿も僕たちの姿に驚いているようです。



「鶴さんから聞いてはいたけど、そんな本格的な格好で来るとは思わなかったな」


「えへへ、どう?燭台切さん。似合ってる?」


「うん、皆似合ってるしピッタリだね!」


「ところで、主君と燭台切殿は何をされていたのですか?」


「今日のおやつを作っていました」


「!あるじさまのてづくりおやつですか!?」


「はい。カボチャのタルトを作ろうかと」



主君の手元には裏ごししている最中のカボチャがある。それとは別に、目と口の形にくり貫いた小さなカボチャが横にちょこんと鎮座していた。

これは乱兄さんにハロウィンを教えてもらった時の本に載っていたジャックオランタンというお飾りですね。ということは…



「なーんだ、主さんハロウィン知ってたんだ」


「知ってたというか…、瑠璃様に出会ってから知ったのです。毎年悪戯されるようになったのでその対策に」


「あのひとにはあるじさまもかないませんね」


「あの子に敵う人間はいません」



…相当苦労してきたのですね、主君。お顔に疲れが浮かんでいます。

でも良かったです。ハロウィンを知らずに生きてきたと言われたら七夕の時のように少し悲しく思うところでしたから、そういう意味では瑠璃殿に感謝しなくては。

しかし乱兄さんは少し不服そうに頬を膨らませた。教えるなら自分が教えたかったというのと、これまで誰にも悪戯できていないことに不満を抱いているのでしょう。



「…さて、と。悪戯はまた後ででも宜しいですか?」


「え?」


「主君?」


「生憎まだ作っている最中なものですから、今はお菓子何も持っていないのです」


「おい、大将」


「お菓子をあげられないので悪戯でしょう?可愛らしいおばけさんたち?」



ほんのり口角を上げられた主君は乱兄さんの頭をそっと撫でてそう仰った。頭の良い主君のことです、乱兄さんの様子を見てわざと悪戯される役目を…。

僕たちのことをちゃんと見て下さっているのだと思うと、わざとだとわかっていても嬉しいものです。乱兄さんも主君に頬をふにふにと弄られて、さっきまで膨れっ面だったのに朱に染まってはにかんだ。



「…もう、これじゃどっちが悪戯されてるかわかんないよ」


「あら、私は悪戯なんてしたことありませんよ?人の表情を見るのに色々と何かすることはありますが」


「それを悪戯って言うの!」


「では、おばけさんに悪戯してしまったのでそれなりのことをされる覚悟をしておきましょうか」


「〜っ、ほんとだよ!覚悟しといてね主さん!!いっぱい悪戯してあげるんだから!!」



嬉しそうにそう宣言した乱兄さんはまた後でねと言って厨を後にした。まだ他にも会っていない方たちの方へ向かうのでしょう、僕たちもその後を追う。



「…あーあ、主さんのあっと驚いた顔が見たかったなぁ。ざーんねん」


「それはむずかしいですよ」


「…でも、あの人が笑ってくれるのは貴重だから良かった」


「そうですね!」


「あ、あれ?薬研兄さんは?」


「あー、厨残ったんじゃね?」



いつの間にか薬研兄さんの姿が無くなっていた。厚兄さんの言うように厨に残ったのでしょう。薬研兄さんは主君のお近くにいることが多いですから。



「まーた独り占め?薬研ってば主さんのこと大好きだよね」


「やっぱそうだよなぁ。でもあれ自覚無いだろ?」


「あるじさまもですね」


「えっ?そうなんですか?」


「薬研といるときのあるじさまはふんいきがちがいますから」


「笑うのも薬研がいる時が多いし」


「焦れったいよね二人して。薬研も早く告白しちゃえば良いのに」


「乱兄さん…」



ズバズバと本音を言う皆さんに僕は何も言えなかった。実のところ僕もそれに同意しているからだ。

お互いに近くにいると安心しているようですし、傍から見ていても相思相愛だと思うのですが、どうも本人たちの自覚は皆無のようで…。



「…あ」


「どうかした五虎退?」


「あ、いえ。あの…、もしも薬研兄さんと主様がお付き合いされたら…」


「されたら?」


「……主様は、僕たちのお姉様になるんですよね?」



五虎退の言葉に乱兄さんの目がギラリと光ったのを僕は見ました。厚兄さんも「あー…」と声を漏らしながら主君が姉君になった時のことを想像しているようです。

僕も…もし主君が姉君になった時は……



「よし!ボク薬研のこと応援する!!絶対お姉ちゃんになってもらうんだから!!」


「ぼ、僕も欲しいですっ、お姉様…」


「僕もです」


(…悪い。薬研、大将。俺には止められねぇ)


「姉さま…」


「よぶくらいならぼくたちもゆるしてもらえるとおもいますよ、小夜くん」



こうして僕たちはいつの間にかハロウィンをそっちのけに、いつか来ると信じて止まないその日を思って話を膨らませていた。


本当にそんな日が来た時は、心から祝福致しますね。










「皆さんと行かなくて良かったのですか?」

「良いんだ。大将の悪戯が確定しちまったんだから何かあっちゃ困るしな」

「別に私は構いませんけど…」

「乱のあの顔見ただろ?変なことする気満々だ。鶴丸の旦那の驚き提供の次に厄介だからな乱は」

「そんな大袈裟な…」

「ところで、薬研くんは主に悪戯しないの?せっかく吸血鬼の格好してるのに」

「ん?ああ、俺は乱たちが羽目を外し過ぎないように見張ってただけだからな。次は変な悪戯から大将を守るのが俺の役目だ」

「大丈夫だとは思いますが…。でもあまりに過ぎた悪戯の時はよろしくお願いします」

「おう、任せてくれ」

(……惚れたお姫様を守る吸血鬼の図だね…。僕ってもしかしてお邪魔かな?)


 

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