「乱は、行って良かったと申しておりました」
さっきの広間での様子を思い返していると一期くんは粟田口の部屋の方を見つめながら言った。
「確かに後悔の念も強いけれど、主の痛みを知れて良かったと。だからこれからも主の為にもっともっと頑張るんだと」
「はは、強いねぇ乱くんは」
「ですから次郎殿も、どうか後悔に潰されませぬよう」
「…………」
後悔…か。そうだねぇ、アタシも後悔していた。
毎晩のように酒を飲むアタシに主は酌をしに来てくれて。つまみを作ってくれることもあった。アタシだけじゃない、兄貴にも他の皆にだって歩み寄って話しかけてくれて。なのに誰も気づけなかった。
「…後悔は私にもありますが、私は主の気持ちの方がわかります」
「江雪?」
「宗三と小夜。弟たちを想う気持ちは主が妹君を想う気持ちと同じ。想うから痛みに堪えられ我慢できる。戦いは嫌いですが、弟たちの為ならこの身を血で染める覚悟もあります」
「…………」
「確かに主は溜め込み過ぎました。ですがその痣と痛みに堪え抜いてきた主を、どうか否定しないであげてください。例えそれが酷く悲しいものであっても、妹君を守ってきた姉としての功績なのですから」
姉として…。ちら、と兄貴を見ると目が合った。
兄貴も同じ気持ちだったんだろうか。前任から守ろうとしてくれたことも何度もあったし、一期くんだってあんなに弟がいるんだから主の気持ちは痛いほどわかっている筈だ。
「…そうだね。否定しちゃあいけない」
アタシたちに見られたのは不本意だと思うだろう。でも、アタシはそれを見て良かったと思うよ。乱くんと同じように主の為になろうって思ったし、こうして兄貴たちが感じる気持ちも知ることができたから。
だからね、主。アンタのこと理解してくれる連中がこんなに集まってんだ。
痛いのも苦しいのも皆に分けておくれ。
いっぱい泣いて、いっぱい頼っておくれ。
アタシたちは皆、アンタの味方だから。
止まない雨はまるで主が泣いているかのように降り続いていた。