「メリークリスマス!!」
「「「「「メリークリスマス!!!」」」」」
今夜は乱の号令でパーティーが始まった。
堀川といち兄の特製料理に手を付けながら、皆が皆楽しそうに笑っている。クリスマスという現代の行事はよくわからんが、宴ともなると雰囲気に乗せられて自然と楽しくなるのだから不思議だ。
「あ〜る〜じぃ〜!お酌してよ、お酌ぅ〜」
「はい、どうぞ。お料理も食べてくださいね?」
「次郎、そんなに酔っぱらって主に絡むんじゃありません」
大将も次郎太刀に酌をせがまれながらどこか楽しそうに目元を和ませている。
七夕でもそうだったように、皆がワイワイと楽しんでいる雰囲気が好きなのだろう。その渦中に己がいることよりもそれを見ていることの方が。
そんな彼女を見て楽しんでいる俺もまたそうなのかもしれないと思うと何だか笑えてきた。
「楽しそうだな、薬研」
隣で五虎退の虎と戯れながら周りの様子を見ていた厚が笑いながらそう言ってきた。厚用に取り分けてあった皿はもう空だ。速いな食べるの。
「そうか?」
「おう。大将のとこ行かねぇのか?」
「今は次郎太刀に絡まれてるからな」
酒酌め酒酌めばっかり言われてる。太郎太刀もいるからまだ大丈夫だろうと俺も食事を進めてるんだが、どうにも厚は心配らしい。
「助けに行きゃ良いのに。少し困ってねぇ?」
「あれはあれで楽しそうだし。本当に困ってたらすぐ行くさ」
「へぇ…」
「なんだ?」
「いいや、大将のことよくわかってんだなぁと」
「近侍だからな」
「そっか!(…それだけじゃねぇだろうに)」
納得したらしい厚はまた虎たちを猫じゃらしで遊ばせる。
近侍だから…か。本当にそれだけだとは限らねぇけど、まだ言えねぇな。
「主!メリークリスマス!
これ俺たちからのクリスマスプレゼント!」
いつの間にか席を立っていた加州と大和守。二人がそれを運んで大将の隣に持ってくると、乱、前田、五虎退も一緒になって並んだ。
昼間買ってきたらしいそれは…
「でかっ!!」
「わぁ、おっきいです!」
「がはははははっ!!また大層なものを買ってきたものだな!!」
「…可愛い」
「大き過ぎますけどね」
「ですが和みます…」
口々にデカイだの可愛いだの言われているそれは猫のクッションソファーというものらしい。
大将なら丸まれば普通に上で眠れるくらいの大きさの白猫。ニカッと笑う顔は何となくシロに似ている。だからこれを選んだのかもな。
「…………」
「主?どうしたの?」
大将ならすぐに「ありがとうございます」と返事をしそうなものなのに、彼女はずっとその猫クッションを見つめている。その沈黙の長いこと長いこと。
…否、そうでもないんだが待つ者としては長すぎた。全員が大将に注目してて、宴の席なのに静かすぎる…。
もしや気に入らなかったのかと不安に駆られて加州と五虎退が涙目になってきた時、やっと動いた大将はゆっくりとその猫クッションに触れた。
………そ…
……ふに…ふに…
ぐにぐに………びよーん…
「…………」
「あ、主?おーい?」
「主さん?」
猫クッションの頬を摘まんだり耳を引っ張ったり。やがて十分手触りを堪能した彼女は両手を伸ばしてポスンとそれに顔を埋めた。
まさかそんな行動をするとは思わず動揺が走るが、そんな周りを知ってか知らずか彼女はスリっと頬を擦り付けながら加州たちを見上げて一言。
「凄く…嬉しいです。ありがとうございます…」
効果音をつけるなら"ふにゃん"だろうか。ほのかに頬を赤らめて笑むその表情は何にも例えられない幸せそうな顔。
「「「「「…………!!!」」」」」
一瞬何が起こったのかわからなかった加州たちだが、頭で理解できた瞬間に手で顔を覆ったり震えながら蹲ったりと悶え始めた。
「か、かわっ!!主かわい…!!」
「清光〜?しっかり〜」
「〜っ、もうさっきのと言い今のと言い今日は何なの!?」
「何なんだアレ何なんだアレ!!いつもと違い過ぎるだろ!!?」
流れ弾に当たったように燭台切や和泉守たちまで顔を真っ赤にしてダンダンと畳を叩いている。端から見りゃ「何だこれは」と呆れるだろうが、俺もギリギリのところで保っていた。
何だ今の?大将ってあんな表情出来たのか?ふにゃんって何だふにゃんって!!
そんな俺たちの胸中を知りながらも静かな連中はやはり静かだった。
「随分と顔に出されるようになったものですね」
「うん。主も可愛い」
「そうですね。これも写真に納めておきた…」
パシャッ
「兄様!?いつの間にかめらを!?」
「こういうこともあろうかと懐に忍ばせていました」
「…兄様も主のことには抜かりないですね」
「あとでその写真ちょうだい、兄様」
「ええ、わかりました」
……否、左文字兄弟もおかしなことになってる気がする。江雪左文字ってあんな奴だったか?あとで俺も焼き増ししてもらおう。
そんなことを思いながら騒ぎの発端である大将に目をやれば、ちょうどこちらを見てちょいちょいと手招いていた。
そういう仕草もいつもはしねぇだろうに。悶えそうになる己を自制しながら大将の元に行けば彼女はまた笑みを溢した。
「楽しいか?」
「楽しいです。嬉しいです。クリスマスって良いものですね」
「そうだな」
俺たちにとっても大将にとっても、これは初めてと言って良いクリスマスパーティーだ。楽しんでくれてるなら俺も嬉しい。
「さて、そろそろケーキも持ってきましょう。手伝って頂けますか?」
「その為に呼んだんだろ?」
「はい。何やら皆さん動けなさそうなので。でもどうしたのでしょう?食あたりならケーキやめた方が…」
「(いや、原因あんたの笑顔なんだが…)
皆なら大丈夫だからケーキ持ってこようぜ」
「?はい」
表情に出るようになっても出てることは自覚してないらしい。きょとんとする彼女に苦笑しながら一緒に広間を出た。