「瑪瑙のパートナーが決まったよ」
そう真黒先輩から俺と翡翠に連絡が来たのは、本丸の桜が散り始めた時のことだった。
詳しい話をしたいからと二人揃って政府まで呼び出され、近侍を一人ずつ連れて行けば先輩の執務室へと通される。翡翠の近侍は固定で鯰尾藤四郎。俺は日替わりで、今日は燭台切光忠を連れてきた。帰りに一緒に夕飯の買い出しに行く為でもある。
先輩に座るように促され、見るからに高そうなソファーに腰掛ければ早速本題に入った。
「さてさて。今日来てもらった理由は知っての通り、先日伝えたように瑪瑙のパートナーが決まったからその子の詳細を説明する為だ」
「前置きは良いからさっさと説明しろ。つーか瑠璃嬢は呼ばなくて良いのかよ?」
ここに呼ばれたのは俺たち二人だけ。既に翡翠と共に任務をこなしている筈の瑠璃は呼んでいないようだ。
瑠璃は先輩の妹だから、わざわざ俺たちと一緒には呼ばなかったということなのかもしれない。瑠璃はあれでも必要以上の情報を持っているしね。
「うん。瑠璃はもう全部知ってるからね。たぶん今頃その子の本丸訪問してるだろうし」
「え、今?」
なんで今?というか瑠璃にいきなり本丸訪問させて良いの?…あ、翡翠も同じこと考えてる顔してる。
絶対何かやらかしてるよね、瑠璃。ついこの間も翡翠の本丸で花壇に足跡つけてたし、俺の本丸でも鍛練場の床に穴空けたしね。
そんな瑠璃の本丸訪問を先輩が止めないなんて…
「もしかして、俺のパートナーになる子って瑠璃の知り合いッスか?」
「え゛っ。つまり破壊魔が増えるんですか!?うわぁ…」
「鯰尾くん、気持ちはわかるけどお兄さんに失礼だよ」
「気持ちわかっちゃうの燭台切くん!?
…知り合いっていうか、私たちの身内だよ。義理の妹の一人で、つい最近黒本丸に就任。一週間足らずで二十五の刀剣男士を更正させた。審神者登録名は"クロ"」
「!クロって…」
「政府で話題になってた子…?」
会議で政府に来れば何度もその噂を耳にした。
"鈴城に買われた娘"
"恐ろしいほど膨大な霊力を持っている"
"頭脳明晰で運動神経も抜群"
"印象は人形のようでピクリとも笑わない"
政府の役人だろうと養成所の在校生だろうと関係なく流れていくそれは、聞いていて気分の良いものではなかった。本人がどんな子なのか知らなかったけれど、どう聞いたってそんなもの悪口陰口でしかなかったから。そいつらの言ってる表情からして見下していたからね。
鵜呑みにする方もする方だけど、止めない鈴城家や先輩たちもどうかと思う。まぁ、その子自身も嫌がる素振りを見せなかったらしいし、どうしようもなかったのだろうけど。
俺のパートナーはどうやらその噂の子で間違いないようで、先輩は少しだけ瞳を曇らせた。
「…君たちがあの噂をどう受け止めているかはわからないけど、クロのことはどうか自分の目で確めて判断してほしい」
「そう言うってことは、噂はデタラメってことッスか?」
「全てが…というわけじゃないよ。ここから先の話は口外しないようにね」
そうして、俺たちは先輩の義妹だという双子について事細かに知ることとなった。先輩が知る彼女たちの全てを。