「…私が知ってるのはこれで全てだ」


「…………」


「…………」



執務室が重い空気に包まれる。

聞いた限りでは…、特にまだ十八歳だというクロちゃんは他人の俺からしても同情せざるを得ない人生を歩んでいた。

その上、霊力が大きすぎるからって霊力制圧チョーカーまで着けて、外出先も制限があるなんて…。まるで犬か猫を飼っているような…、どう考えたってそんなの人間の扱いじゃない。

…俺も翡翠もそれなりの人生を歩んできたつもりだったけど、クロちゃんはまだ解放されてないんだね。シロちゃんを自由にさせてあげられないと、クロちゃんはずっと…



「真黒さんじゃ助けてあげられないんですか?同じ鈴城なのに」


「勿論助けたいよ。仕事だからとは言え、二人を引き取りに行ったのは私だからね。でも鈴城家当主としての実権はまだ父の重春にある。私が下手に動いたら余計にクロたちの首を絞めることになるんだ」


「そんな…」


「全部受け入れてやがんのか、そいつは」


「うん、まぁ…。本人はたぶん受け入れてると思ってないだろうけど…」


「?歯切れが悪いね」



何故だか苦笑を漏らす先輩に俺たちは顔を見合わせた。

今の話の流れからすると、クロちゃんはシロちゃんを人質に取られているも同然。全てを受け入れて言いなりにならないとシロちゃんが危険に晒されてしまうだろう。

鈴城の人間全員がというわけじゃないけど、審神者貴族というのは霊力や審神者としての素質しか見ていない。先輩や瑠璃のような人間の方が貴重なくらいだ。

血の繋がりの無いクロちゃんにとって、鈴城は檻としか思えない場所だろう。受け入れないという選択肢が生まれるとは思えないんだけど…。



「クロはさ、私たちが思う以上に強い子だよ」


「虐待を耐え抜いてきたから?」


「それもある。でも、あの子は受け入れるでも拒絶するでもなくチョーカーを着けたんだよ」


「受け入れるでも拒絶するでもない?」


「普通なら妹のこともあるし契約もチョーカーも受け入れざるを得ないだろう。でもね、あの子はいつも言うんだ」





「負けない」





「「負けてなんかやるものか」ってさ、真っ直ぐな瞳で。"人形みたい"って噂が嘘のような表情でね」


「"負けない"…」


「本人も言ってたけど、クロはかなりの負けず嫌いだ。小中学校の勉強からだいぶ遅れてたのに暇を見つけては私の所に勉強を教わりに来て、養成所で最初のテストからトップの瑠璃を追い越した。剣術の授業も最初だけ引き分けでそれ以降は男女問わず勝ち抜いて…」


「うわぁぁ…」


「異常なまでの負けず嫌いだな…」


「ふふ、そうだね。でも全てはシロと共に生きる未来のため。クロが見ているのはそれだけだ。目の前にいる鈴城なんてクロの瞳には映っていない。チョーカーを着けたのだってその未来を掴むための布石だとでも思ってるんだろうね」


「…………」



シロちゃんと生きるため…。

たった一人の家族の為に全てやってのけるのか、その子は。

自分の人生を省みずに…。

自分が傷つくことも厭わずに。



「……俺にはわかんねぇな」


「主…」


「…………」


「俺には守りたいと思うような血をわけた家族なんていねぇし、寧ろ一回死にかけた。もう二度と顔合わせんのも御免だ」



思い出すのもうんざりする。あんな奴等の血が流れていると思うだけで吐き気がするし、全身の血を洗い流して入れ換えたいくらいだ。



「…でも、そッスね」



口角が上がるのが自分でもわかった。

負けず嫌いの女の子ね…。俺が今まで見てきた女は貧弱で泣き虫でいざという時に役に立たないような奴らばかり。先輩の話が本当なら、随分と骨のある女の子がパートナーになったってことだ。



「ちょーっとその子に興味湧いた。顔合わせってするんスよね?」


「うん。クロは次の会議でシロのお見舞いにも行くだろうから、その時二人同時に挨拶ってことで。翡翠もできれば一緒にね」


「へいへい」



次の会議、確か一週間後だったかな。ただの顔合わせだけど、俺も翡翠も観察力はある方だからね。

良きパートナーでありますように!










「ふぇっくしゅん!!」

「??風邪ッスか?」

「否、違うと思う」

「どうせそのクロって奴がてめぇのこと恨んでんじゃねぇの?瑠璃嬢止めなかったから」

「う…っ
(大当たりな気がする…)」


 

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