唯一落ち着いた様子の大将の声によって、俺たちはとりあえず朝餉を終えた。

食べている間のことはあまり頭に残っていない。何故なら皆あまりにも男前になった大将に釘付けだったからだ。女人の時も凛とした佇まいで別嬪さんだったが、男になるとまたその顔立ちも姿勢も毅然としていて格好良い。

こんなことを思うのはお互い性別が変わっているせいもあるからか?今の大将は男なのにそれでも俺は彼女が好きらしい。

シロも男になったが、「大和くん可愛いー!!」と大和守に飛び付く様子に中身はそのままなんだなと苦笑した。たじろぐ大和守には密かに合掌しておいた。


食器を片付け、各々が一息ついたところで再び大将たちを含めた会議が始まる。



「主さんたち、なんで浴衣なの?」


「皆さんは服装も女性のものになったようですが、私たちの服はそのままだったのです」


「乱ちゃんみたく可愛いままならともかく、私たちのこの姿でスカートはキモイでしょ?肩幅も広くなったみたいで袖が通らなくてさ」



二人の普段着はワイシャツとスカートだ。女人の時のものでは今の彼女たちには小さ過ぎる。六時に起きてそれに気づきどうしようかと悩んだ末、二人とも大将の浴衣に着替えたのだとか。

彼女の浴衣は藍色で縞模様が入っているだけのもの。女人の時はもう少し柄があってもと思ったが、今となってはそれが幸いして男になった二人が着ても違和感が無い。
…まぁ、それでも小さいみたいだがな。立つと脹ら脛まで見えちまってるし。



「皆さんの服がそのまま大きければ、どなたかのをお借りしようと思ったのですがね…」


「残念ながら、俺たちのは全て変わってしまっていますからね…」


「ふむ…。今の主たちの大きさは男の鶴丸くらいか?」


「そんなに大きい?」


「うん、たぶんそれくらいじゃないかな」


「たんとうのぼくたちはあまりかわってないですからね。みあげたかんじはそれくらいです」


「へー。鶴丸さん!背比べしよ!」


「おう、良いぞ」



俺たち短刀の伸長は然程変わっていないだろう。打刀以上の奴らは少し縮んだようだ。

背比べをする鶴丸とシロ。そこに一番大きかった岩融も加わると、並んだ伸長差もそれほど無いように見える。まだ岩融の方が大きいが確実に縮んでいた。



「って、こんなに悠長にしていて大丈夫なのか?」



誰か一人ならまだしも全員の性別が変わったんだ。もうちっと焦るべきだと思うんだが、大将は楽しそうなシロを眺めて呑気に茶を啜っていた。



「大丈夫です。既にご連絡してありますし、そろそろ来る頃ですね」



来る?誰かを呼んだのかと小首を傾げると、本丸の結界が少しだけ揺れた。来客のようだ。

出迎えると言う大将に近侍としてついて行くと玄関には大将の相方、瑪瑙が山姥切を連れて立っていた。



「お待たせ、クロちゃん。ふふ、今はクロくんかな?」


「わざわざご足労頂きありがとうございます」


「良いって、パートナーの一大事なんだからさ。はい、男物の服。シロちゃんの分も買ってきたから着替えておいで」


「助かります。どうぞ、お上がりください」



瑪瑙を呼んだのは相談と服を買ってきてもらう為だったらしい。玄関から上がった瑪瑙と大将の目線の高さは同じくらいだった。



「それにしても、格好良いねぇクロちゃん。薬研くんも女の子になるとこんな感じなんだね。口説くわけじゃないけど可愛いなぁ、薬研ちゃん」


「口説き文句だとしても嬉しくない」


「はは!ごめんごめん。
他の皆は広間かな?先に行ってるね」



後ろ手を振って広間に向かっていく瑪瑙に溜め息を吐く。形は女になっても中身は男のままだってわかってるだろうに。



「……私もそう思う」


「は?」



何か言ったか?と彼女を見上げる前に視界が暗くなった。後ろには壁。顔の左には大将の手が添えられ、右には大将の顔。



「可愛い、薬研ちゃん」


「っ!!!?」



俺の耳元でボソッと囁き瑪瑙の後を追っていく大将。立ち尽くす俺を置いて何事もなかったかのように去っていく。その姿が見えなくなったところで俺は両手で顔を覆い、寄り掛かった壁からずるずると座り込んだ。

溶けるんじゃないかってくらいに顔が熱い。



(ぁ…、あの野郎…っ!)



ドクドクとどうしようもなく煩く鳴り響く心の臓。

"可愛い"なんて言われたって何も思わないと思っていた。瑪瑙に言われた時まではそうだったんだ。なのにまさか彼女に言われただけでこんなにも動揺するとは。

嬉しく思っている己に驚き、しかし早くこの熱を冷まさねばと内心焦りながら厨に向かい冷たい水を飲んだ。そんな俺の様子に彼女がほくそ笑んでいたとは知らずに…。










「あははっ、みんな本当に女の子だ!良いねぇ刀剣美女本丸!」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろう」

「はいはい。クニは堅いなぁ。あ、クロちゃん遅かったね」

「すみません。はい、お茶どうぞ」

「ありがとう!ところで薬研くんは?」

「水を飲みに行くと…。何やら今日は体感温度が高いようで」

「!ククッ、成る程ね。薬研ちゃんも大変だなぁ。でも後で仕返しされるかもよ、クロくん?」

「後のことは後で考えますよ。今は私が仕返しする番ですから」

「ハハハ!確かにそうだ!」


 

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